My World -4- 普段はしない早起きも、最近はするようになった。 何故なら、24時間では足らないからだ。いびるには。 私は早朝から、シードとクルガンの執務室に居た。 「はいシード、お手」 「………」 「駄目じゃない、キチンとご主人様の言うとおりにしなさい。あ、そうだ。今日はプレゼントがあるのよー」 そう言って私は、バックの中から太い骨を取り出す。 「ほーら、しゃぶりたいでしょー。優しいご主人様に感謝なさい。ほれ」 「…………………」 「ん?まだ足りないの?まったく贅沢なわんこねぇ。ほれ、首輪。これは私からじゃなくて、皇子様からの贈り物だよー」 相手が反抗しないのを良いことに、私はシードの背後に立ち、首輪をかちっとつけてやる。 「似合うわー。ねぇ、そう思わない、クルガン」 「えぇ、とっても。シード。激しく似合っているぞ。今度の戦争のときも是非それをつけていろ」 「あぁ、それで前に出すぎたシード犬をピンって引っ張るのね?」 「散歩係も必要でしょうか。城内でマーキングでもされたら堪りませんから」 「言えてるわー。でも散歩係だったら、多分ジルが真っ先に名乗り出ると思わない?」 あの子なら、やる。寧ろ楽しそうに。 「それは名案です。殿下がペットを飼う事を許してくださらないと愚痴を零していましたから。きっとジル様もお喜びになる事でしょう」 「そうね、じゃあ早速ジルに話をつけに…」 その時、ジッと椅子に座り、仕事をこなしていた赤髪の犬が立ち上がった。 「お前らぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!いい加減にしろよっ!!!!!」 むちゃくちゃ怒っている。 しかし目の前の2人は知らぬ存ぜぬだ。 「嫌よ」 「断る」 即答。余りにも早い返答だったので、シードの方が詰まっている。 「何で私が止めなきゃいけないのよ。この前の勝負、私が買ったんだから。賞品を楽しんでいるだけじゃない。ねぇ、わんちゃん」 「くぅぅぅぅう!!!!俺は負けてねぇっ!!!!!」 「あら、往生際が悪いわよ。そういうのを負け犬の遠吠えっていうのよ」 「く…クルガンは関係ないだろ!!!何でお前まで俺の事を犬扱いするんだよ」 「殿に合わせただけだが?ご婦人の会話に付き合うのも軍人、いや、男としての勤めだとおもってるのでな、お前と違って」 そもそもクルガンに口で敵うわけが無いのに。 無駄な勝負を挑み、アッサリ返り討ちにされるシードを見て、私は思わず笑顔になった(酷) 仕方ない、そろそろ助け舟を出してやるか。 私ったら、やっさしー。 「まぁ、いいわ。ねぇ、そんなに犬扱いされるのが嫌なら、今日は私に付き合いなさいよ」 「はぁ?何言ってんだ、んなの出来るわけ…」 「別に構わないぞ、シード」 シードが言い終える前に、クルガンが横槍を入れた。 「どうせここで殿と行かなければ、お前は今日一日殿に犬扱いされるだろう。そして結局仕事は進まない。だったら、今から一緒に行って、ポイントでも稼いでくるんだな」 その後更に、「心配するな、お前の仕事は積んどいてやる」とか実も蓋もないことを言った。 こうなるとシードに拒否権は一切無い。 私はガックリしているシードの上着を掴んで、窓を大きく開けた。 「じゃあクルガン、行ってくるわ。精々3日くらいで帰ってくるから。じゃ、行ってきマース」 「お…おい、まさかまさかお前、飛んでく気じゃねぇだろうな!!!??」 「何言ってんの。飛んでかないと3日で帰って来れないじゃない。あ、堕ちても保険利かないから。精々頑張って私に掴まってて」 私はそう言って、空へと舞い上がる。 シードの重さの分、魔力を余計に食うが、私にとっては微々たるものだ。 「じゃあ飛ばすわよ。堕ちないでよ、助ける気、全く無いから」 「だったら俺を、連れてくなぁぁぁぁぁあぁあ…………」 はい、シカトー。 「…なぁ。もうここ、都市同盟の国境過ぎてねぇか?」 「えぇ、過ぎてるわよ。あーっちの方にあったでしょ、関所」 私の言葉を聞いて、シードはギョッとする。 「おっ!!お前!!!何しにここまでっ!!!」 お?どうやら舌を噛んだらしい。 そりゃそうだ、只今強風吹き荒れる高度500メートルを驀進中だ。 勿論揺れる。横風とかあるし。 そうこうしているうちに、ミューズ市を抜け、デュナン湖に出る。 「何処まで行く気だっ!?このままだとサウスウィンドゥやトラン共和国に…っ!!まさかお前っ!!!」 「もーすぐよ、もーすぐ。いいから落ち着きなさい。また舌噛むわよ」 そういいながら、私は飛び続けた。 湖に太陽の光が反射して、キラキラしている。 さぞ水浴びしたら気持ち良いだろうなぁー。なんて思いながら。 もう夕日が沈む。 空は黄昏。闇が静かに目を覚ます。 「さ、降りるわよ。気を付けなさい」 私が降りたのは、何もない広々とした草原。その中でも一際大きい木の傍だ。 「…いい加減に聞かせろよ。お前、こんなところまで何しに来た?」 「こんなところって…。シードだって来た事あるでしょ?えーっと、デュナン城、だっけ?新同盟軍の本拠地。私来たことなかったんだもん」 私が来たかったのはここだ。もう肉眼で本拠地となっている城が見える。 「普通ねぇよ!!ったく、見終わったんならとっとと帰るぞ。バレたらただ事じゃすまないっての…」 「あぁら。ここまで来て手ぶらで帰る気?もっと建設的にいきましょうよ、建設的に」 「…嫌な予感がするから止めろよ。いいか、絶対止めとけ」 「さぁて。ここにあるのは、アラ不思議、この地域だと珍しくも無いお洋服〜」 私はスッと二着の服を取り出す。 ん?何でそんな呆れた顔で私を見てるの、シード。 「…これに着替えて中に入るなんて馬鹿なこと考えてるんじゃないだろうな。そもそも俺は顔が割れてんだよ。最前線で戦ってんだし」 馬鹿らしい、と言った感じに言い放つシード。 そんなの分かってる。犬に注意されなくたって。 「御託はいいわ。とりあえず着替えなさい。じゃないと明日からまた犬扱いよ」 今度は首輪にリードまで付けてやる。 ふ、コボルトも真っ青。 ついこの間、ルルノイエに来ていた商人のコボルトから色々買っておいて良かった。 私の脅しに、シードは仕方なしに着替え始めた。 私も木の影でそそくさと着替え始める。 「おい、着替え終わったぞ。で、どうすんだよ」 「これから魔法をかけてあげる。変化の魔法よ。全然わかんないくらいの他人に変身させてあげる。そうすれば余裕でしょ、城内に入り込むくらい。さ、かけるわよ。 ――風よ、大地よ、炎よ。彼の者の姿を化かせ。 ……ほら、これで姿が変わった筈よ」 そう言って私はシードに手鏡を渡した。 恐る恐るそれを見たシードは驚きの声を上げた。 「すっげぇ!!マジで別人じゃねぇか!!!お前こんな事も出来たのかよ!!」 「ふふん、見直した?…って言っても、私、こういうの苦手なのよねぇー。成功してよかったー。でもやっぱり不完全かもー。時間が経つと元に戻っちゃうし、魔力の強い人には全く無効だから、気をつけなさいよ。実際私には何時ものシードに見えてるし」 非常に残念だが。 彼が今一体どんな顔になっているのかが無茶苦茶気になる。 「それでもすげぇって。本当に少し見直したかも」 こう素直に褒められると、何だか照れくさいな。 むむむ、私を照れさせるなんて、なかなかやるな、シード。 「それに、私自身には出来ないしね、この魔法」 ほら、私は攻撃魔法専門だし。 妙に感心しているシードを見つつ、私は何時もは無造作に伸ばしているだけの髪の毛を纏め上げる。 「ほれ、これで私は大分印象が変わるでしょ?そもそも私は知られてないし、大丈夫大丈夫」 「そーだな。じゃあいっちょ行ってみますかっ!」 面白い変装で、随分乗り気になったシードと、はなから行く気満々だったは、早速デュナン城の城門を目指して歩き始めた。 楽しい予感に包まれながら、いざ出陣…? --------------------------------------------------------------------- デュナン城にスパイらしいです。はい。 相変わらず、本編とは関係の無い話が爆走中ですね。 時期としてはトゥーリバー防衛戦後からグリンヒル脱出前の間ら辺。 まだ2主達がグリンヒルに向かう前ですね。 どんな風になるかはまだ未定(未定なんだ…) |
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