My World −3−



私は朝からルンルンだった。
考えてみれば、この世界に来て、初めての外出だ。
しかも海外旅行と洒落こんでいる(他国だから。一応)
更におニューの服だし。
それにこれから思う存分魔法が使えると考えると、今から武者震いがする。


「なぁに試そうかな?やっぱり上級魔法で一掃するのって気持ちがいいのよねぇ。でもそれじゃあ一発で終わっちゃうし。…それはちょっと勘弁だし…」

あーでもないこーでもないと私は悩んでいた。
周りは既に動いている。どうやら本格的な移動が始まるらしい。
その一軍の中に、見知った顔を見かけた。昨日会ったばかりだ。

「あれ、クルガンも行くんだ。奇遇だね」

既に『さん』付けは無い。私は難しいのが嫌いだ。そういう、意味の無いことはしたくない。
その時の彼の顔は非常に面白かった。
何かもう信じられないものを見た、といった感じで。
何かを言おうとするんだけど、声に出なくて。
思わず私が腹を抱えて笑ってしまうくらい。

「…ジル様の客人である貴方が何故ここに?今現在ここは女性がいて良い場所じゃありませんよ」

やっと出た言葉は事務的。何だ、つまらん。

「ちゃんとルカの許可は貰ってます。私は私で行動するから気にしないでね」

「……あの方は何を考えてるんだか…」

頭を抱えているクルガン。胃薬がポケットから出てきても不思議ではないような表情だ。

「とりあえずハイランドの事を考えてるんじゃない?壊されたくないみたいだし」

私の返答に、クルガンは首をかしげた。まぁ分からないだろうねぇ。

「…おいクルガン。誰だよ、その女」

その時初めて、私をけげんな顔で見つめている男に気が付いた。
真っ赤な髪が印象的だった。燃え上がる、炎のような髪。
兵士の服を着ていないところを見ると、結構位の高い人間なんだろうか。こんなんでも。

「…おい、お前、今何考えた。絶対俺の悪口だろ」

「あら?貴方人の心が読めるの?大正解よ。見直してあげる」

ぶち。
そんな音が聞こえた気がした。
何だ、これだけで。情けない。
しかし、そこはまぁ彼も一応大人だ。まだ理性が残っているらしく、まだ冷静を装っている。

「…この方は、ジル様の客人だ。…お前も噂くらいは聞いているだろう」

クルガンがそう言うと、赤髪の男はあぁ!とか言った。
どうやら私、噂になっているらしい。知らなかった。

「あのルカ様と一緒に飯食ったりしてる、奇特な客人の噂。…って、コイツがそうなわけ?…なんでそんな奴が戦場最前線に居るんだよ」

き…奇特…。…別にね、言われた事ないわけじゃないけどね。
何でだろう、コイツに言われると非常に腹が立つ。

「…ルカ様が許可されたそうだ。今回の作戦に参加する事を…」

「そう!そうなの!!だから文句は聞かないからね」

ナイスクルガン。
あと1歩フォローが遅れてたら、ミューズ市ってとこの前に、目の前の赤髪を始末するところだったわ。
クルガンに言われても、赤髪は面白くなさそうだった。
そういえば、彼の名前を聞いていない気がする。

「ねぇ、貴方の名前、私知らないわ。教えてくれない?」

「俺だってお前の名前なんか知らねぇよ」

まぁ生意気。大体同じ年くらいでしょうに。

「分かった。大人な私から名乗ってあげる。私は・ジェライド・橘よ。そうね、親しみを込めて、『天才美人魔女様』と呼ぶことを許可するわ。長いものね、私の名前」

これでもかなり破格の扱いだ。喜んで欲しいものだ。
ぶちぶち。
あ。またなんで。私何か悪い事言ったかしら?

「…俺はシードだ。『最強美形シード様』と呼ぶことを許可してやろう。嬉しいだろ」

「何でよ。長くなってるじゃない、シード」

そもそもなんで私が他人に『様』をつけなければならないのか。
私が『様』を付けるのは、祖母くらいだ。

「勝手に呼び捨てにしてるんじゃねぇ!!!じゃあお前はだっ!!この変人!!!」

ぶち。
これはシードじゃない。私がキレた音だ。

「なななな何ですってっ!?何時誰が私を呼び捨て略称で呼んでいいと言ったのかしら?!…恥を知りなさい」

ホウキを構える。私は本気だ。
それを見て、シードも腰の剣に手を…。

「止めてください、2人共。今すぐここから追い出しますよ。ここというのはハイランド国中という事です。これから戦だというのに、余計な体力を使わないでいただきたい。貴方達は一体いくつの子どもですか」

冷静に考えると、全くもってお子様な言い合いだったのに気が付くから文句が言えない。しかし決着はちゃんとつけないとな。

「じゃあシード。この戦が終わって、ルルノイエに帰ったら、酒飲み勝負よ。まさか飲めないなんて言わないわよね?」

私のその言葉に、シードはニヤリと笑った。

「いいぜー。その勝負乗った。…後悔すんなよ、俺は結構いける方だぜ?」

「あ、私もザルだから大丈夫。負ける事は考えてないから平気よ。負けたらシード、あんた私の犬ね」

ぶちぶちぶち。
シードの理性、そろそろ限界の模様です。

「じゃあお前が負けたら、お前が犬だぞ!いいんだな!!」

「構わないわよ。負けないから」

目と目の間で火花が散る。
その様子を見て、クルガンは深い溜息を吐いていた。





もう辺りは暗く、静まり返っている。
今日、月は出ていない。星だけが淡い光を放っている。
王国軍は、ミューズ市の目と鼻の先まで来ていた。
住民にも、誰にも気が付かれないようにそっと。
私は軍からは少し離れた場所に居た。

「じゃあクルガン、頑張ってね。シード、ここで死んだら貴方のお墓に『さよなら負け犬』とでも書いてあげわ」

「いい度胸じゃねぇか。間違ってお前が死んだら、『高慢ちき女、ここに眠る』とでも書いてやるよ!」

「…お前達、本気で静かにして欲しいのだが…」

全然気の締まらない雰囲気だったが、数秒後、3人とも目つきを変える。
城門辺りにパッと明るい火が灯ったから。進軍の合図だ。

「全軍、前に進め!!」

クルガンが一般兵達に命令する。それに答えるように兵士達は一目散に城門を目指した。

「オラオラっ!!とっとと進みやがれっ!!」

シードも軍を進める。
スッカリ軍人さんの顔つきだ。当たり前だけど。

「さてと。私もそろそろ行こうかな?魔法の実験、早くしたいしねー」

私はそのまま夜空へ浮かび上がる。
風が気持ちがいい。これで月がでていたら、最高のお月見日和だ。
とりあえず、ミューズ市をぐるーっと見て回る。
突然の王国軍急襲に、人々は混乱して、逃げ回っている。
ハッキリ言えば、滑稽だ。
何処の世界でも、『非常時は、慌てないで行動』というマニュアルがあると思うのだが。
実際そんな事態になると、そんなものは全くもって役立たない。

「じゃ、私もそろそろやりましょうかね」

大気の風を集める。風の強い時は風の魔法が相性がいい。

「風よ、わが命に答えて、かの地を切り裂け」

言葉は力になり、集まった風が大地を抉る。
それが何箇所も起こる。これがなかなか難しい。
それでも魔法は、私にきちんと制御されている。
うーん、絶好調。
ちょっと火とか使ってもいいかな?いいかな?
そう思った矢先だ。下から大罵声が聞こえてきたのは。

「何だってんだ!!!ったく!!!イキナリかまいたち何か起きるんじゃねぇっ!!!」

むむむ。それは私に対しての文句と受け取っていいのかな?
私はその大声の人物の目の前に降り立った。

「ちょっとそこの人。それは私に対しての罵声と取ってよろしいのかな?」

「…何だ、この女。どっから現れたんだ…??」

「おいビクトール。知り合いか?」

「いや、知らねぇ。全然記憶にねぇ」

私だって知りません。だって初対面だもん。
だが、売られた喧嘩は誰のだって買うようにしている。私は。

「だって、私の起こした風に文句言ってたじゃない。それ、私に喧嘩売ってるんでしょ?」

大男の方が、俺?と言わんばかりに自分を指差す。そうそう。
青いバンダナの男はそれを聞いて私との距離を空ける。うむ、適切な判断。
でも魔女に間合いはあんまり無意味だよ。

「…ってー事はだ。この無茶苦茶なかまいたちを起こしたのは、お前だっていうのか?」

「そーよ。私がここで魔法の実験してたの。分かった?」

「すんじゃねぇ!!!街中だぞ!!!」

すかさずツッコミが入る。
本業は漫才師か何かなんだろうか、この男は。
でも、先刻の風を私が起こした事、信じてもらえたようだ。よかったよかった。

「だってルカは思う存分やっていいって言ったもん。なら別にいいじゃない。ついでに言えば、まだ誰も殺してないわよ。怪我もさせてないし。悪い事してないじゃない」

何故私がツッコまれなければならないのか。

「こ…こいつ…」

「止めろビクトール。…話してもムダだ。多分、俺達と思考回路が全く別なんだ」

おい、そこの青バンダナ。それは私を馬鹿にしているのか?そうなのか?
へぇー。ふぅーん。ほーう。

「…良いわ。今は2人共逃がしてあげる。その方が楽しそうだしね。…その代わり、名前を教えてもらおうかしら?」

2人は少々驚いたような顔をして、だが次には笑っていた。
挑戦的な笑顔だ。私は嫌いじゃない、こういう顔。

「俺はビクトールだ。…後悔するぜ?今ここで逃がした事」

しない。きっとしない。逆に楽しませてもらう気だから。

「…フリックだ。…お前、ハイランド軍の人間か?」

私は答える代わりに頭をぶんぶん横に振ってあげた。

「私はお客さん。今日は実験の為、軍にくっついてきただけ」

フリックは明らかに呆れていた。何で?
そんな時、どこか遠くで雄たけびのような声が聞こえた。
どうやらミューズ市の中心部が王国軍によって陥落されたらしい。

「早く行かなくていいの?そろそろここらにも来るんじゃない?本隊」

「あぁ、そうさせてもらうよ!…っと、待て。お前の名前はまだ聞いてねぇぞ」

そういえばそうだ。
最近色んな人に名乗ってるから、スッカリ忘れていた。
こんなに人に名前を教えるのも久しぶりかもしれない。
とりあえず、こんなに色んな人に会うのが何年ぶりのことか。

「んー、私は、魔女の。それで良いわ。じゃあね、ビクトールにフリック。縁が合ったらまた会いましょ。運命よ、運命」

それだけ聞くと、2人は一目散に走り出す。
目に付く王国兵士を倒して、城門に向かっていった。
あれならきっと逃げ切るだろうな。
……………楽しみが増えたわ(ニヤリ)






あっという間に夜が明けた。
空が明るくなり始めた頃には、ミューズ市は殆ど王国軍に占拠されていた。
私はそれなりに実験を終え、今は軍の朝ご飯にあやかっている。

「あ、シードにクルガン。お帰り。お先に食べてるよ」

「…お前、軍人でもないくせに…」

シードの怒りゲージ、更に上昇中。
とりあえず私はシカトしておく。

「どうよクルガン。首尾の方は」

急に話を触れられて、一瞬クルガンが眉をひそめる。

「…圧勝ですね。敵は混乱してキチンと機能してませんでしたし、市長のアナベルは既に死亡を確認済みです。ミューズはこれで我が王国軍の手に落ちたと言ってもいいでしょう」

「案外つまんねぇよなー。アッサリ勝っちまって、俺様の出番が無かったぜ」

大して戦えなかったのが、余程つまらなかったらしいシードは、機嫌が悪い。
だけど私は何となく予感があった。このままじゃ終わらないと。

「大丈夫大丈夫。きっと楽しい事があるよ。…きっと、ね」

「それならいいんだけど、よ。…何だよ、お前何か知ってるのか?」

「別にっ!」と言うと、私は空へと舞い上がった。朝日が眩しい。シードが下で何か文句を言ってる。聞こえないけど。

「私、暇だからちょっとルルノイエに帰ってるわ。じゃ、そういう事でー」

全速力で飛ばせば、お昼頃には着くだろうか。
何となく、その予感をルカにも話してあげたくて。
私は、まだ闇から抜け出したばかりの空を、一線に駆け抜けた。










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第3弾。もう文じゃないような気がするけど気にしないで下さい。
かなり捏造のミューズ戦。
何かもう、色々無理しすぎなのが丸分かり。
どうしてもビクトール達を今出したかった…。
主人公がどんどん唯我独尊な感じになっていく気がしてならない…。
「私こんな事、思わない」とか気分を害した方、スイマセン。
でもうちの主人公Aちゃんはこんな感じなんです、ハイ。
許してやってください。



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