My World



るん♪と思わず鼻歌を歌いそうになる。
それも仕方ないでしょ、こんな簡単に進入出来ちゃったんだから!

「そもそも、ここ結構来るもの拒まずって感じよねぇー。人の出入りも結構あるし。我関せずって顔で堂々と門潜れば全然バレないじゃない」

それもまぁ、顔が割れてないせいなのだが。
それにしても、賑やかな所だ。女子供も多いような気がする。

「シードの奴は何処に行ったかしら?上手くやってればいいけど。アイツ嘘下手くそそうだし〜」

まあバレたら一発で判りそうだし、今は気にしないでおこう。
とりあえず、上に上ってみようとする。
階段を探していると、大きなホールに出た。
なかなか立派なものじゃないかと感心する。

「むむ?あれはなーにーかーなー?」

そのホールの奥に、一風変わった石の置物があるのだ。
近付いてみると、何やら文字が細かに書かれている。
どうやら人の名前らしい。それが所々に書かれているのだ。

「はー。何の為のものかしら?掃除当番表には見えないけど」

じっと見詰めてると、イキナリ背後に気配を感じた。
思わず間合いを取る。

「……石版に何か用なわけ?ってかアンタ誰?」

まあ、可愛らしくないお子様だ。
格好からして、魔法使いなのは確かなのだが。

「べーつーにー。用なんて特にないけど、何だろうと疑問に思ったから近付いたまでよ。で、これ何さ?」

誰?という質問は華麗にスルー。
わざとスルーしたというのが、相手にもわかったのか、怪訝な顔をされた。
おおう、折角の綺麗な顔が台無しだよ少年。
だが少年は暫く黙った後、親切にもその石の説明をしてくれた。

「……コレは宿星を刻んだ石版。天魁星の下に集いし、仲間の名前を刻んだ石版だ」

「ん?意外に素直だね、少年。もっと嫌味とか言われるかと思ってたのに」

「自分の敵わなさそうな相手くらい見抜けるんでね。無謀な戦いはしないようにしてるから」

ほう。見ただけで私の実力がわかったか。
という事は、少年もなかなかの使い手と見た。

「いい勘だね。よし少年、名前を覚えておこう。要注意人物ってことでインプットするから」

暗にハイランドの人間という事を仄めかしてみたが、きっと少年はそんな事お見通しだろう。
そして今すぐそれを上司や仲間に伝えるような馬鹿なことをする人間にも見えない。

「……ルック。アンタも名乗るくらいはすれば?」

「ん?私は。親しみを込めて、って呼ぶ事を許してあげる、素直な少年。いや、ルック。君と同じ、魔法使いだよ、多分」

「……出来れば戦場で会いたくはない相手だね」

「お褒めの言葉、あーりーがーとー。でも私も軍人ってわけじゃないから、そうそう会うことは無さげよ?」

「それなら安心なんだけど」

「私が皇子様に『出たいなぁv』って言って、許可が出たら行くけどね。そんときはヨロシクー」

「……」

横にあった階段を駆け上がる。
じゃぁねぇ〜といい、投げキッス。
何時までもルックは、呆れた顔をしていた。





それから上の階は会議室がありーの、住居スペースがありーので大して面白いものが無かった。
しかし、屋上から見た景色は絶景だった。
湖が目の前にあって、キラキラしてるのだ。
が見たら、喜ぶだろうに。

「……そういえばあの子、今何処にいるのかしら?」

全く気にしていなかったが、もこの世界に来ている筈なのだ。
そう離れてはいないだろうから、この国か、ハイランド辺りには居ると思うのだけれど。

「あの子の事だから、この国に居れば、ここに来ると思うんだけど」

この国で一番情報が集まるのはこの城だ。
そのくらい判るだろう、こういう経験を何度かしている我が妹なら。
が、如何せん妹は抜けているところがある。
末妹として少々皆で甘やかせ過ぎたのか、考え方も、結構甘い。

「でも、もしもの事があったらちょっと大変よねぇ…」

両親・弟妹共に目に入れても痛くないほど可愛がっている末妹に何かあれば。
恐ろしい事になるのは目に見えている。
大して怖いものが無いも、自分より強い親には弱い。
思わず背筋に冷たいものが過ぎる。

「…くわばらくわばら。…こ…これからはそれと無しに気配を探しておこう…」

怖い話は自己完結させ、周りを見渡した。
まだ帰るには時間がある。
その時目に入った面白そうなもの目掛けて、地を蹴った。











その日、チャコはいつも通り見張り台で昼寝を…もとい見張りをしていた。

「ふぁぁぁあ。特にハイランド軍が動いたって話も無いのに、なんで見張りなんてしなきゃなんないんだよー…」

遊びたい盛りのチャコにとっては、有りすぎる暇な時間は苦痛。
下で遊んでいる同じ歳辺りの子達が羨ましい。

「まぁまぁ。ハイ・ヨーさんが作ってくれたケーキ、持ってきたからさ」

唐突に生まれた声は、寝そべっている自分より低い場所から聞こえた。
チャコはふっと視線を階段に向けると、人の良い笑顔を満面に浮かべた少年が立っていた。

「いいのかよー、リーダーがこんなとこ来ててー」

「いいんだよー、シュウのお使いから帰ってきたばっかりなんだからー」

それを聞いてチャコは大きく笑った。
チャコは、こんな自分と変わらないが好きだった。
リーダーだからと言って、偉ぶらず、自分達と同じ目線で立ってくれる人だから、信頼できた。
は食べやすいようにチョコンとチャコの隣に座る。

「さぁて今回のケーキはー?」

「じゃじゃじゃじゃーん」

奇妙な効果音と共に、ケーキが姿を現す。

「極上チーズケーキでしたー」

「おぉー!!!」

このケーキを見れば見張り台の暇だった時間への恨みも吹っ飛ぶ。
思わずお腹がぐぅと鳴り、それを聞いたは苦笑しつつ、一つの皿をチャコに渡した。
チャコはそれを嬉々として受け取り、大胆に大きく一口口に入れた。

「んーvvうんめぇvvv」

「本当だねぇー。ハイ・ヨーって作れない料理あるのかな?」

うまうま、と冷たいフォークでチーズケーキを突っついていると。

「やだー、おいしそーvv」

突然、上から声が生まれた。
おかしい。
ここは見張り台なのだから、周辺にここより高い場所は無いはず。
チャコとは辺りをキョロキョロ見回す。

「ねぇねぇ、それ、私にも分けてくんない?お腹空いちゃったー」

若い女性の声だ。

「…、おいら幻聴聞こえてきたよ…」

「あれ?チャコも?いやだねぇ、2人してー」

「むむ?若いのに現実逃避?よくないわよー。仕方ないわね、じゃあ降りてやるわよ、まったく…」

声の主はブツブツ文句を言いつつ見張り台の上に、優雅に降り立った。

「…ウィングボードじゃねぇのに、空からきた…」

「えーっと、どなたでしたっけ…?」

いち早く冷静さを取り戻したが、女性に問いかける。

「ああ、私、今日初めてここにきたのよー。楽しいね、ここ」

女性のその言葉に、なんだ新しい同志の人かーとが納得しかけると今度はチャコがツッコミを入れる。

「いや、違うだろ、っ!こんな怪しげな奴の言う事信じるなよっ!!」

「大丈夫だよー、チャコ。そんなに人を疑っちゃだめだよー?」

笑顔で答えるに、チャコは頭を抱える。
こんなのん気でいーのかよ、リーダー…。

「でもよー、敵って場合もあるんじゃねぇーか?」

「いやだな、チャコ。敵がこんな堂々としているわけないでしょー。ほらー、ルックの知り合いの魔法使いかもよ?」

そう考える人の方が少ないと思う、とは言えなかった。
まだ不審そうに見つめるチャコに、しかし女性は堂々としていた。
それを見てチャコはゾクッとする。
勝てない、絶対に。そんな気がした。
女性はその微笑を崩さず、声を出す。

「ん?ルックなら知ってるけど?」

「ほらー。考えすぎでしょ、チャコ」

先刻会ったからね、とは言わずに女性は笑う。
はのほほんと笑う。

「で…でも、名乗りもしない奴…!!!」

チャコは必死に反抗する。
こいつは危ない、と本能が告げる。

「それは貴方達も同じでしょ?私、知らないもの。…まぁいいわ。大人な私から名乗ってあげる。私の名前は。年上なんだから、ちゃんと礼をもって呼びなさい」

「えーっと、じゃあさん。僕はです。一応このデュナン軍の軍主をしています。こっちはウィングボードのチャコ。よろしくおねがいします」

「へぇ。君がトップなんだー。へぇー私の弟と大差ないのに、大変なのねぇー」

そういいながら、はチャコの羽を捕まえる。

「…!!」

声にならない声でチャコが暴れるが、は手を離そうとはせず、チャコを膝の上に乗せた。

「なにこれー、羽生えてるよ、羽!何、本物これ?」

きゃっきゃっと言わんばかりに喜ぶに、はニッコリ笑顔で対応。
嫌がるチャコもシカト気味。

「チャコはウィングボードですからー」

「ふぅん、ウィングボードって羽が生えてるんだ…。いい実験台になりそうじゃない」

「実験ってなんだ、実験ってっ!!!!!」

なにやら恐ろしいものを感じ、チャコの抵抗が激しくなる。
流石にも手を離さざる得なくなった。

「ちっ…。色々試してみよって思ったのに…」

「何だよ、色々ってっ!!!おいリーダーっ!!!こんな危険な奴、野放しにすんなっ!!」

しかし必死のチャコの訴えも空しく。

「大丈夫だって、チャコ。さんは少しお茶目しちゃっただけだってー」

「ぜぇぇぇぇってぇぇぇぇぇちげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

は大笑いしてまた下に飛び去っていった。
それから暫くチャコは、上空を警戒するようになったのはまた別の話。








楽しかったが、そろそろ日が傾く。

「折角来たんだから、お土産でも買っていこうかしら?何がいいかな〜」

土地特有の物がいいかなぁとか勝手に思っている。
なら地酒か?自分も飲みたいし。
それならば行き先は酒場でいいだろうか?

「はーい、そこのお姉さん?」

城の住人らしき少女を、怪しく呼び止める。
アースの子供は昨今の物騒な事件の数々のお陰で、この呼び止め方では8割逃げられる。

「え?それって私?私?」

が、ここはそこまで物騒では無いらしい。戦争中なのに物騒じゃない、というのも変な話だが。

「そうそう、そこの貴女。えーっと、酒場に行きたいんだけど、どうすればいいのかしら?」

尋ねると、少女は嬉しそうに笑う。
美少女、というわけではないが、笑う表情は豊かで可愛い。
さぞや人気が高かろう、など下賎な事を少々考える。

「最近この城に来た人?案内します!」

そう言って、戦闘を元気よく歩き始める。
それにしても、ここの危機管理は殆ど無いに等しく思える。
こんな怪しい人間を、何の疑いもせず案内するか?普通。
先刻の軍主のこともある。
それでいいのか、同盟軍…。
多分、私1人で全滅させられるぞ、こいつ等…。
まぁそんな事しても、自分の利益になる事は一つも無いのだし、絶対しないが。
すると、前を歩く少女がくるりとコチラを向いた。

「そういえば名乗ってなかったよ、私、ナナミですっ」

「私はと呼んで構わないわ」

お互い名乗って、少し歩く距離も縮まる。
ナナミは楽しそうにを見る。

「ねぇねぇ、さんは魔法使いなの?」

その瞳には好奇心を隠さない。
こういう瞳は、嫌いじゃない。

「そうよー。多分この世界では存在しないような、最強の魔女よー」

するとナナミはますます顔を喜ばせた。

「すごいすごーいっ!!!私、魔法は苦手だから羨ましいーっ!!」

「でも私、ここの人達のいう『紋章』は使えないわよ」

これを言った時のクルガン達の驚いた顔を思い出す。
この世界の人々は人によって差はあるらしいが、皆紋章を宿せる。
が、私には出来ない。まぁ特に困ることは無いが。

「へぇ…。さんも変わってるんだねぇー」

ん?今変な表現が…。

「何?ナナミも宿せないの?」

この世界の住人において、それはかなり希少価値なんじゃないか?
是非とも実験に付き合って欲しい。
だがそれは無残にも否定された。

「あ、私じゃなくて、この城の子なの。お医者さんの卵でー…」

むむむ?なーんだか変な予感がするぞ?
考えていると、唐突にナナミが止まった。

「あ、はいさん。ここが酒場だよーv」

いつの間にか着いたらしい。

「ありがと、ナナミ。少しの間だったけど意外に楽しかったわ」

「うん!さん、またお話しましょうねっ!」

そういってナナミはブンブン手を振り、元気よく走り去って行った。
元気な子だ…、若いわねぇー。
少々自分の歳を気にしつつ、酒場の扉を開いた。










そこからは酒場独特の匂いが漂ってきた。
思いっきり飲んで行きたいが、ここは我慢。
さぁ、さっさとお土産の地酒を買って帰ろうとするか。
すぐ近くにあるカウンターに向かい、店主らしき美女に話しかける。

「ねぇ、外で飲みたいからお酒売ってくんない?」

気安く私が話しかけると、美女店主もそれに快く応じた。

「構わないよ、どれがいいんだい?」

「ここの地酒がいいんだ、飲んだ事無いから」

私の注文を了解すると、美女店主は少し離れたところにあった酒瓶を3本持ってきた。

「はいよ、これがそうだけど、どれにする?」

目の前に置かれた個性的な色をした瓶を眺める。
それぞれ名前は


『きやがれ ノースウィンドウ』


『爆裂 デュナン(超辛口)』


『南風のときめき』


……………どれも買いたくねぇ…。

「………すんごい名前ね」

「…私が決めたわけじゃないよ…」

ということは、この店主もそう思ってるのだろう。
本当に、この名前たちを付けた人はある意味尊敬するに値する。
が、ネタの楽しいお土産ではあるだろう、うん。

「じゃ全部貰う。お代、これで足りるかしら?」

「あぁ、まいどあり。またおいで」

さて、酒も買ったし、あとはシードを探して帰るだけ…
そう思っていた。
目の前に見知った顔が居なければ。
よく覚えている。ミューズで会った奴らだ。
幸い奴らは結構飲んでいる。今ならバレずにこの場を離れられるだろう。
冷静に、あくまで、冷静に…。
あと1歩で出れる、そんなベストタイミング。
あの熊の声が酒場に響いた。

「あーのミューズにいた魔女、あのぺチャパイ女もこれから出てくんのかよ…。全く嫌になるぜー…」

「まだ力は未知数だが、向こうに腕のいい紋章使いが居られるのは困るな…。ルックだけで対応できるか…」

「なぁーに、あんなぺチャ女、オレが軽く捻ってやるって!」

「…お前、酔ってるだろ、かなり……」

………何か言った?あの熊。
うふ…、うふふふふふ?
人のこと、ぺチャパイって、言った…?
……人が…ものっそ気にしてる事を…よくも…。
私の周りに魔力が渦巻き始める。
ブツブツと詠唱を唱えているのを、この騒がしい酒場では誰も気に留めないだろう。
だがだんだん術が完成してくると同時に、皆流石に空気の重さが変わったことに気が付く。
狙われている本人は全く気が付いていなかったが。
私の頭上に直径50cmくらいの火の玉が急速に出来上がる。
勘のいい奴は手にジョッキを持ったまま、急いで外に出ようとする、がもう遅い。

「だぁぁぁれぇぇぇがぁぁぁ……ぺチャパイだってぇぇぇぇ?この熊がぁぁぁぁぁ!!!!!」

熊に向かって思いっきり火の玉を投げつける。
そして酒場は大爆発に見舞われた。











「なっ!!!なんであの魔女がここにいんだよっ!?」

「しるかっ!!!分かってんのは、ここの責任はお前が取るってことだっ!!!」

「マジかよっ!?」

あの2人の声が砂煙の向こうから聞こえる。
ちっ…ってことは、しくじったか!

「ぜぇぇぇったぁぁぁい…ころーす…!!」

先刻よりは威力が劣るが、魔法弾を乱発する。
砂煙で目標が眼下に無い以上、数打ちゃ当たる方式で。
しかし邪魔が入る。

っ!!!なにやってんだテメーはっ!!!とっととずらかるぞ!!!」

突如現れたシードは、私の肩を掴み、大急ぎで酒場の出口へ向かう。
私の知らない間に騒ぎは大きくなっていたようだ。

「おい、このままだとまずいぞ…。っていうか、マズイに決まってんだろ、こんな事すりゃ!」

「嫌だシード、乗りツッコミ?面白くないから止めた方がいいわよ」

そういいつつも、私はホウキを取り出す。
こいつらを一掃するのは出来ない事ではないが、非常に疲れそうだ。
それに、ルカに怒られそうだしー。

「ほら、乗って頂戴。置いてくわよ」

シードはブツブツ文句言いつつ、ホウキに乗り私に掴まる。

「ったくお前は何してんだよ!!!見つかったらヤバイって何でわかんねぇんだよ!!!!」

シードの言葉でまたあの言葉を思い出す。
思い出すだけで腹立たしい!

「五月蝿いわね!!!黙りなさいっ!!!アイツが悪いのよ、あの熊が!!!私の一番気にしてる事を言うからぁぁぁ!!!!」

「だからってイキナリ火の玉投げる事ねぇだろ!!しかも特大の奴っ!!!」

「あれでも手加減してやったわっ!!店内であれ以上暴れたら私も危ないからねっ!!!」

散々言い合いをし、2人で文字通り外に飛び出す。
下を見ると、あんぐり唖然とした顔で自分達を見つめる大人子供が見える。
滑稽すぎて思わず笑える。
ホウキの進行方向をハイランドに向けていると、シードの視線が一点を見つめていることに気がついた。
何?好みの子でもいた?と思ってたら。

「………っシードっ!!!!」

そう叫んだ声が聞こえた。
その声はざわつく人々の声のどれよりも響いて届く。

「…………」

背後から呟かれる言葉。
私は真っ直ぐ、シードの視線の先にある少女を見た。
驚きはなかった。
絶対会えるという自信があったから。
少女の方も、私の視線に気がついて。
そして驚いた顔を見せた。
あちらはこのような形で会うなんて夢にも思ってなかったのだろうから。











あぁ。










これから楽しくなりそうだ…………







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無理やり終了ー。
スパイ大作戦編。
がトコトンのほほん主人公になっちゃった…。
っていうか長いなぁ。ほんに長いなぁ。
あれー、この前次は気をつけるとか言ってなかったっけー?


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2006.5.19