Grasp a hand -2-  おまけ。



結局2人が帰って来た頃には、辺りはスッカリ暗くなっていた。
はホウアンに、はシュウに少々の小言をあずかり、2人は急いで食堂に向かった。
しかし、まぁ予想通り新作おやつは全く無くなっていて。
思わずガックリしていた。しかし神は2人を見捨てては居なかった。

さんっ!さん、こっちですっ!!」

元気に手を振る、トウタがそこにはいた。
しかも彼の目の前には、しっかりと3人分のケーキが。

「もしかして、もしかして???」

「はいっ!!お2人の分、ちゃんと取っておきましたよ!!さ、一緒に食べましょう!!」

その時のの喜びようは、とても言葉では表せられないものだった。
思わずトウタに抱き付いたほどだ。

「嬉しいっ!!私、トウタとお友達になれて本当に良かった!!」

現金だ…。そしてもテーブルにつき、早速食べようとした。
だがしかし。

「???あれ?、食べないの???」

テーブルについて、ケーキを見た途端、の顔が青ざめる。
トウタとはその様子を見て、?を浮かべる。
よく見れば、脂汗をかいているようにも見える。

「?食べないの?美味しそうだよ?」

「………食べちゃ、駄目だ…」

「「へっ?」」

の言葉に更に謎が深まる。
そうしていると、は乱暴に立ち上がり、厨房を目指して小走りする。
トウタとはそれについていく事にした。
は厨房に入るなり、ハイ・ヨーを乱暴に呼び出した。彼がこんな事をするのは想像もつかない。

「なんあるねー、さん。乱暴あるよー」

「何だかんだじゃありませんっ!!!この新作、一体どういう事ですかっ!?返答の次第によってはクビも考えておいて下さい!!!」

怖い。かなり怖い。
ハイ・ヨーもの気迫に押されて、口ごもる。

「それねぇー、本当は、ちがうものだったあるよー。でも、出す前にナナミちゃんが落としちゃったある」

は頭を抱える。その後ろでは、とトウタが、
「ナナミって誰?」「さんのお姉さんです」という会話は全く聞こえていない。

「そうしたら、ナナミちゃんが変わりにケーキ作ってくれるって言ってくれたヨー。私、もう夕飯の支度しなきゃならなかったから、大助かりネー」

「……どうしてそんな、酷い事に…」

の目には薄っすら涙まで見える。

「?何で?美味しそうなのに…」

「えぇ、とても美味しそうな香りもしていましたよ?実際食べていた子ども達も『美味しい』って喜んでましたし…」

暗い顔でが振り返る。今度は後ろの2人の会話が耳に入ったようだ。

「…2人とも、食べなくてよかったね。君たちは明日の生還者だよ…」

「ど…どういう事ある?さん」

はふっと笑う。その笑顔は、全てを知り尽くし、そして諦めた顔だ。
若いうちからこんな表情ができるようにはなりたくない。決して。

「…ナナミの料理は、見た目は凄くいい。でもね、見た目だけなんだよ。…味は物凄くて、言葉では表せないものなんだよ…」

ごくり。その場に居る3人は思わず息を飲む。そんな事があるわけ。
しかし、の表情はいたって真面目だ。嘘を吐いているようには見えない。

「でででででも、な、なかなか美味しかったあるよ、ナナミさんのケーキ…。意外に今回は上手くいったんじゃあ…」

「…僕とジョウイがキャロの街でまだ暮らしていた時、ナナミの料理を散々食べさせられた…。そんな時、極々偶に、普通に美味しい料理が出来る事があったんだ。最初は喜んだよ。僕らは人生に勝つことが出来たんだって…」

人生規模の味らしい。
だが、彼の人生はやはり負けたらしい。
現在の彼の表情が物語っている。

「…美味しかった。だけど、そういう料理の後、必ず僕らは翌日体調を崩したんだ。腹は痛いし頭も痛い。熱も酷くて喉は腫れて。そりゃあもう何度『このまま死んじゃうのか』と思ったことか…」

嫌な、予感がした。
ハイ・ヨーはその話を聞いて既に何度か吐こうとしている、が到底吐けるわけもなく。

「じゃ…じゃあ明日辺りになったら…」

「…ころしやうさぎが単体でルカに挑みに行って、無傷で勝利するくらいの奇跡が起こらない限り、皆撃沈する筈だよ…」

は空を見上げる。哀しげに。
とトウタは心の底からまだ食べていなかった事を喜んだ。
なんて先刻喜んだ以上に。

「どうするあるーーーーーっ!!!私も食べてしまったあるよーーーーー!!!」

「…まぁ、皆にナナミの料理を出した罰って事で…」

実も蓋もないの返答に、ハイ・ヨーは本気で涙する。

「そ…そんな…。ナナミちゃんなんて、『結構上手に出来たから、シュウさん達にもあげて来ようv』なんて言って、持って行ってしまったヨー…」

「「「えええええぇっ!!!??」」」

今度は3人の声が見事にハモった。しかしこれはかなり嬉しくない情報だ。
シュウが倒れる=同盟軍最大の危機である。
もしこんな時に王国軍にでも攻め込まれたら、たまったもんじゃない。
その後4人で駆けつけたが、一足遅く。
ナナミのケーキは綺麗サッパリ無くなってしまっていた。

「あれ?、どうしたの??あ、も食べたかった?ケーキ。すっごく上手に出来たんだからー」

普通に見れば、天使の笑顔なんだろうなとは思う。
しかし、今見ると、小悪魔の笑顔に見えるのは何故だろう。

「…シュウ、食べちゃった?」

軍主さまは恐る恐る軍師に尋ねる。
できれば、『私は甘いものが苦手なので』とか言って断っていて欲しい。
しかし。

「えぇ、先程丁度アップルと休憩をしていたので。…それがどうかしましたか?」

最悪、と言わんばかりにが天を仰いだ。
トウタは心なしか青ざめている。明日の事を思って。
そのケーキを作った本人、ナナミはそんな弟達の様子が全く分かっていない。
しかも聞いたところによると、色んな人に配ったらしく、被害は何処まで拡大したかも分からない始末。
翌日、の予想通り体調不良を訴える人が続出し、医務室は大盛況(嬉しくない)だったとか。
勿論その中にはあの冷徹軍師も入っていて、多くの人を驚かせた。
そしてナナミには、軍主命令で暫く料理禁止令がださてたらしい(暫くじゃないと文句言うから)
最後に。
ハイ・ヨーの食堂には、料理名の隣に、誰が調理した、という明記が入る様になったとか。
今日もデュナン城は、元気です。









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2のオマケ話。
ナナミの珍料理設定はまりんオリジナルです。
何か2主君が妙に悟ってるというか、何というか。
翌日、被害にあわなかった人も、ハイ・ヨーが急病の為、餓死寸前だったとか。
にしても、ハイ・ヨーのしゃべり方ってわかんないなぁ……。


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