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1.無
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今、俺が居る世界は無じゃない











何も無い。


光や、音さえも何も。


ここは無の世界だ。


始まりも無ければ、終わりさえ無い。


永遠に得る事も失う事も無い世界。









唐突に、目が覚めた。
周りを見渡すと、まだ薄暗い。
だが確かに自分の部屋だ。
1年前に戻ってきた、自分の部屋。
息を整えつつ、自分の手を凝視する。
見える。そして判る。
窓を開けると東の空が白んできている。
それは光が見せる芸術だ。
少し目覚めの早い鳥が、さえずる。
朝の少し寒い風が、頬を撫でる。
風が過ぎ去る音が、聞こえる。
ここは無ではない。

「……俺らしくも無い」

吐く息は、白く。
その全てに生命を感じる事ができる。
そして、全てを失ったあの時でもない。
居場所を奪われ、存在を奪われたあの頃。
あの『ルーク』では無くなり『アッシュ』になった時。
憎む事でしか、自分を保てなかった。
誰も信じるものかと、心を鎖で縛り付けて。











アッシュは静かに部屋を出た。
両親は勿論、まだ大半の使用人たちは眠っているのだろう。
人影は皆無だ。
玄関から外に出ると見張りの兵士が驚くので、塀を飛び越える。
悪いが白光騎士団より自分のが実力が上なのは歴然。
塀を飛び越えるなんてわけも無い。
邸前の広場もシンとしている。
広場だけではない、街中が静寂に満ちている。
だがそれは決して『無』ではない。
そこには確かに、人々の生きる命の灯りがあるのだ。
数年前まで、それを忘れていた。
それをアッシュに思い出せてくれたのは、彼女だ。
ついっと上を見上げる。
このバチカルの象徴である王城が静かに雄々しくそびえ立っている。
ここに、アッシュにとって最も大切な人がいるのだ。
守りたい光。
こんな穏やかな気持ちになるのは彼女に対してだけだ。
決して言葉には出来ないだろうけれど。











「……あら?アッシュではなくて?貴方もお散歩ですの?」

以心伝心というか。
先ほどまで心の中に描いていた人が、目の前に現れる。
まるで少し早く登った太陽のような。
光帯びた金の髪が美しく光った。

「……お前こそどうした。こんなに朝早く……」

金の女性はくすりと笑う。

「あら、私は何時もこの時間には起きていますわ。目を覚ますための散歩中です」

知らなかった。
もともと貴族や王族というのは起きるのが遅いものなのだが、やはり彼女に常識は通じないようだ。

「どちらかというとコチラのが驚きましたわ。何時も起きるのが遅いアッシュが、どういう風の吹き回しですの?」

アッシュの朝はそれなりに遅い。
低血圧だからか、それとも平和に漬かり過ぎて弛んでいるのかだ。

「お……俺は……」

言えない。
言えるわけが無い。
夢見が悪くて目覚めたなんて、格好悪すぎる。

「……たまたま目が覚めたんで、歩いていただけだ」

「なら、私と一緒に歩きましょう?よろしいでしょう?」

「あ……あぁ」

彼女からの申し出を断れるわけも無い。
ただでさえ昼はお互い政務で慌しく会える機会も少ない。
だったらこうやって朝早く一緒の時間を過ごすのも悪くは無いような気もする。
彼女の散歩コースは常に決まっているらしく、アッシュは大人しく付いていく事にした。
30分くらい経った頃だろうか、彼女が急に足を止める。

「?どうした、ナタリア……」

「ほらアッシュ、夜が明けますわ……綺麗でしょう?」

山間から日が昇り、周りの空が明るくなっていくのが見えた。
確かにそれは美しく。
世界に彩を与えた。
ここは『無』ではない。
音があって、光があって。
そして何より隣にはこの微笑みがある。

「あぁ……綺麗だ」

ここは『無』ではない。
自分の生きる世界はここだ。
そして、その世界が今また、始まる。












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捏造EDアスナタ編始まり始まりー。
この2人は是非本編で幸せになってもらいたかったカプだから。
絶対幸せな捏造EDを書くぞ!!というのは心に決めてました。去年から。
こうして自分の拙い文で書くのも心苦しいですが、
まぁ自分の妄想は自分で形にするってことで。
今回のこのshineシリーズは全部考えた後でかかれてます。
ガイルー・アスナタ・シンアニ全部合わせて30話。
意外に量がある事にビビッています。
何でアッシュ・ルーク・六神将達が生きてるのかとか説明とか入れるともっとになる予感。
まぁそれは書くかどうかも判りませんが。
とりあえず、頑張ろうかなとか思います。
ではでは。


2006.2.22