ひめこい





「…なんでアニスがここにいるのさ」

そんなの決まってるじゃん。
アンタがそこにいるからだよ。

「…なに?また裏切り?」

楽しそうに笑いながら彼は私を貶す。
勝手にすれば良い。
私も、勝手にさせてもらうから。

「それとも、もしかしてボクに会いたかったから…とか?」

そういわれて、私はシンクをじっと見る。

「またイオンの真似、して欲しいわけ?自分で殺したのに?」

彼は私が崩れるところを見たがってる。
で も
そんな姿、見せるつもりは毛頭ない。
何も言わず、ただシンクを見つめてる。
そんな私にシンクはだんだん腹を立ててきたようだ。

「…用が無いなら、帰らせてもらうよ。君と違って忙しいんだよ、ボクは。」

帰る。どこに?
あの、空に浮かぶ城。
明日、私が皆と行く場所。
きっと。
あなたと。

最後に会える場所。

自然と体が動いた。

私は何も言わず、ただ目の前に立つシンクを抱きしめていた。

「………いきなりなんなわけ?」

声は冷たい。
でも、振り解こうとはしない。
振り解こうとしても、逃がすつもりはなかったけど。

「………行か……ないで…」

搾り出すような、私の声。
離したくない、何時までも。
ずっとこのままで居られたら。
気がついたらシンクは私に顔を向けていた。

「……何言ってんの?明日戦う相手に」

じゃあどうして私を抱きしめてくれるの?
じゃあどうしてそんなに泣きそうな瞳をしているの?

「まぁ、アニスがここであいつらを裏切って、こっちに寝返るっていうのなら話は別だけどね」

「………そんなの出来るわけ無いじゃん」

「だから馬鹿なこと言うなって言ってんだよ」

「…今初めて言われた」

「揚げ足取りは嫌われるよ」

「…シンクに嫌われなきゃそれでいい…」

「……馬鹿?」

そんな会話をしてても、お互い離れる気配はなく。
それ以上何も言えなくなって。
好きなんて言わない。
愛してるとなんて言わない。
欲しいのは、今。
ただ一夜だけの喜びを。
貴方と居たという思い出を。







暫くして、彼は何も言わず、去っていった。
私ももう、引き止めはしなかった。
私達の道は、明日で完全に断ち切れるのだから。

「さよ…なら…っ」

誰も居ない、月の浮かぶ空に向かって呟く。
誰も知らない、別れの言葉。
零れる涙は、止まることを知らない。

あ あ

なんでアイツは私の敵なんだろう。

あ あ

なんで私はアイツの敵なんだろう。

こんな世界嫌い。
シンクが居ない世界なんて要らない。
そんな事、思っては駄目だって知ってるけど。
綺麗に花咲いてしまったこの想いはどうすればいいんだろう。
捨てる事も、埋める事も、自分から切り離す事すら出来ない。
きっと一生誰にも言えない秘恋。
苦しいほど、胸に残って。








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あーえー、なんでしょうね?これ。
初主催同盟・シンアニ同盟開通記念…とでも言っておきますか。
はい、シンアニ(のつもり)ですよ〜。
時期的に、エルドラント突入前夜ですね。
大佐とお話しした後の…って感じで。
見事にイオンの事とかスルーしているあたり、自分の愚かさを感じます。

ついでに題名解説をば。
『ひめこい』っていうのは『姫恋』ではなく『秘恋』と書きます。
ってかそんな言葉があるかなんて私知りません。
勝手に作ったんですよ!!えーそーですとも。
因みにこの話、イメージは音楽からです。「VAGRANCY」様のCDを聞いててパッと。
この話を書いてる時は、常にそれをリピート。
今ここで流れてるのがその曲『恋ヒ数え』です。
midiバージョンとCDバージョンには少々違いがあるので、買って聞いてみるのも良いかと思いますv
(急に宣伝かい)
また書きたいな、こういう暗いの…(好きなんだ!!)




20060201



VAGRANCY:恋ヒ数え