風変わりな家庭教師





「ちょっと!!駿河君でしょ!!廉に勉強教えたの!!!」


「はぁ?…何の事だ?」


いきなり女の子に呼び止められ、真昼は驚いた。しかも言っている意味がよく分からない。


「だってありえないもん!!…ねぇ、どんな秘訣を教えたのよっ!!」


「いや、何も教えてないって。ってか何の話だ?」


女の子は興奮していてイマイチ話が飲み込めない。主語を話してくれ、主語を。


「…この前、化学のテストがあったの。そしたら廉、95点なんて取ったのよ!?クラスでトップよ?!」


ありえない。流石の真昼も耳を疑った。

天地がひっくり返ってもありえない。化学も廉の苦手教科だからだ。

幼馴染である相模廉はお世辞にも勉強が得意ではない。

そんな廉が95点を取れるわけがないのだ。最悪カンニングの可能性が出てくる。

しかしそれを廉に問いただす事も出来ず…3日後、また悲劇が起きた。


「…廉が…生物で98?」


「そぉぉなのよぉぉぉ!またクラストップ!先生も超驚いててーっ!あの子に一体何があったのぉぉぉぉぉ!!!」


半狂乱。でもその気持ち、よく分かる。


「そういえば、昨日、妙に帰りが遅かったような…」


昨日廉が帰宅したのは夜の十時だった。

遊びにでも行ってたんだろうなと思ったが、どうやらそれが怪しい。


「明日も化学のテストがあるの。…次また良い点だったら先生達、本気で廉の事疑い始めるよ―――っ!!」


ようはカンニングしているかどうか心配してるのだ、この子は廉を。


「…分かった、今日調べてみる。…廉の無実の為に」


真昼はそう言って、笑った。





放課後から真昼は廉をつける事にした。いたって普通に過ごしている。何ら怪しい事はない。しかし。


「あ、私もう行かなくちゃ。じゃぁーねぇーvv」


クラスの皆に大きく手を振り、足早に廊下を走っていく廉。

しかしその足は昇降口に向かわず、何故か理科室に向かった。

そのまま廉は理科室の前まで走り、ガラッと開け、中に入る。

やはりここらしい。そっと中に入ると、廉の姿が見当たらない。

すると、準備室の方から声が聞こえた。


「…この中か?…って事は、誰か、居る?」


もしそれが男だったら、と思うとちょっとムカつく。

しかも声の調子からすると楽しそうだ。誰だか知りたくて、そっとドアを開けてみた。


「…ん?廉、誰か来たよ?」


「あへ?だーれだっ…ってなぁんだ、真昼ジャン。大丈夫―私の幼馴染なんだよー」


「そうなんだ。よかった、先生とかじゃなくて」


廉じゃない声の主は男の子のようだった。人影だけが見える。


「んで真昼、どうしたのさ。こんなところにこんな時間に」


「それはこっちの台詞。何やってんだ、お前こそ」


「私?私は明日のテストの勉強。教えてもらってたの」


誰に、そう真昼は聞こうとした。だがその前にすっと人影がこっちに歩んできた。


「僕が廉に教えてるんだ。まぁ、理科しか出来ないけどね」


「うんにゃジン君、随分お世話になってるよ―――。ありがとv」


廉がジン君と呼んだ、そいつの顔がやっと見えた。間が、開く。

やっと出た声は、少し擦れていた気がする。


「…廉、お前、そいつに教わってたのか?」


「うん。そうだけど?どーしたの、真昼?」


「そいつ、何かおかしいと思わんか?」


「最初服着て無くてね、ジン君。お兄ちゃんのお古上げちゃった」


「いや、そうじゃなくて。…そいつ、人体模型じゃん…」


「だから『ジン君』なんだけど?」


「廉が付けてくれたんだ、合ってると思わない?」


のほほんとした二人(人か?)の会話に、真昼は思いっきり呆れる。

ジンは、本当に人体模型だった。言葉をしゃべる。


「私、授業中寝てたら先生に掃除を命じられてさぁ。んで掃除してたら、ジン君が手伝ってくれてさ。ついでに勉強も見てくれた、って訳です」


そういえば廉は昔から物応じない奴だったと今更ながら思ったり。


「僕もさぁ、話せるって分かったら絶対捨てられるって分かってたから。ずっと黙ってたんだけど、何か廉なら平気かなって。そしたらやっぱり平気で、『掃除手伝ってくれてありがとー』って言うから、じゃあ勉強くらい見てあげるよって事になってね」


確かにずっと理科室にいた人体模型だ、廉が高得点をバンバンだしたのもようやく分かった。


「…でも廉、お前、怖かったりしないのか?」


普通の女の子なら、泣き叫びます。でも当の廉はキョトンとして、


「何処が怖いの?私にとっては生物の磐田先生の方が百倍怖いね」


嗚呼、昔から物応じない…(以下略)

そのあとジンの授業を聞いていたが、これが中々分かりやすい。

思わず学年トップの真昼も耳を傾けるほどだった。

結局帰る頃には九時を回っていた。まさか人体模型に勉強を教わる日が来るとは。

しかしまぁ、それも勉強になったから良しとする。

それと、廉が悪い事をしているんじゃなくて、ホッとした。

少し疑った自分を、心の中で叱った。


「真昼―――っ!!こっから出られるから、早く帰ろっ!ジン君、またねvv」


廉がそう言うと、ひらひらとジンも手を振り返す。


「さて、とっとと帰るぞ、廉」


真昼が、廉の手を掴む。

その後姿を見て、人体模型は満足そうに微笑み、そしてまた物言わぬ人形の振りをする…。







+++++珍しくあとがき。

これ、オフで使ったものです。オフといっても部活の。
文化部発表会なるもので、本を2冊ほど作りまして。
そこで書いた奴の1つ。ってかHPのオリキャラ使うなよ、自分。
もう設定を考えるのも面倒だったんで、彼らに出てもらいました。
ついでにHPにもUPしておこうかななんて考えて。
もう私ったらダメ子vvv
使いまわしジャン!つまりわ!!!






2005.2.4(本当は2004.9.某日)