〜November〜







まだ外は薄暗い。最近夜明けがすっかり遅くなったなぁ。

そんな時間に頑張って起きている私は凄いと思う。

とりあえず、日捲りカレンダーをぺリッと捲る。

今日は11月30日。あー、明日から12月かー。寒いなー。

この季節ってなかなか布団から起きれなくて困るんだよねー。

寒いが、寝ているわけにもいかないので半纏を羽織って朝ごはんとお弁当を作り始める。


「あ…、そういえば、今日は生ゴミの日だった。…結構溜まってたな、捨てに行くか」


夏ほど臭いは臭くないが、やはりあって良い物、とは思えない。つーかぶっちゃけ嫌。

どうせお兄ちゃんに頼んでも先週みたいにスッカリ忘れて「あ、忘れてた」なんて言われるのがオチだ。

鼻っから期待しないでおく。期待すると、ムカつく事になるから。

ゴミ捨て場に行くと、丁度華南ねぇも捨てている所だった。


「華南ねぇ!おはよう!!」


「あら廉ちゃん。どこかの誰かさんと違って、早いのねぇ」


「あはは。でもこのぐらいに起きないと学校に間に合わないしさー」


「誰かさんは私が起こしに行くまでぜーんぜん起きなかったけどねぇ。どうして兄妹なのにこんなに違うのかしら。廉ちゃんはこんなに可愛いのに」


この場合、「誰かさん」というのはお兄ちゃんのことだ。

私も小学生だったからまだ覚えてる。お兄ちゃんの怠惰な生活は。ってか今と大して変わんないな。

ちなみに大抵この時間なら真昼ももう起きている。うちと違って、駿河家は家事共同制だから。

ちょっと前にうちも共同制にしようと意見したところ、2秒でお兄ちゃんに却下された。酷ぇ。


「そういえばさー、明日から12月なんだよねー。1年なんてあっという間だよねー」


「そうねぇ。ついこの間まで夏だったーと思ったら、もう冬ですものねぇ」


華南ねぇ、秋が抜けてるよ。確かに今年は秋まで残暑が続いてたけどさ。

あいかわらず華南ねぇはポケポケしてるなぁ。男の人としてはこういうところが胸を突くのだろうか?


「そうだ、廉ちゃん。今年のクリスマス、もう予定入れたの?」


そっか。12月って事は、1年のうちの3大イベントの一つであるクリスマスが近いのか。

うちにはサンタさん、一度も来てくれた試しが無いけど。

きっと世の子どもたちはホトホト楽しみにしているんだろうなー。


「うーん。まだ特には決めてないなぁ。どうしたの?華南ねぇはどっか出かけるの?留守番してよっか?」


「あ、違うのよ。ただ普通に気になっただけ。真昼がディナーにでも誘ったかなーって思って。それにまだ私も決まってないしね」


あー、真昼がディナーなんて誘ってくれれば、私、キリストに感謝感激するよ。

寧ろ神の存在を信じてあげるね。本当に。

しかし華南ねぇも予定がまだないのか。テッキリ海斗さんならもう誘ってると思ったけど。

…そういえば、海斗さんと華南ねぇ、婚約はしたのに全然結婚しないよなぁ。

お互い忙しいのは分かるだけど、もうそろそろ1年近く経たないか?婚約してから。

それとも他に何か理由があるのだろうか?例えば真昼がいるからーとか。

そんな事心配してるなら、真昼なら私の家で一緒に暮らせばいいだけの話なのにぃvv

…冗談はさておき、本当に何時結婚するのかなー?

そんな事を考えていたら、今年の花火大会の衝撃映像がフラッシュバックした。

あの時のキスは、ただのフザケてたんだなーって思い込んでたけど、もしかしてそれが原因?

…………………………………考えるんじゃなかった。

それならものすっごくお兄ちゃん、嫌な奴じゃない?だって親友の恋人でしょ?婚約者でしょ?

うわぁぁ、昼ドラみたいな展開考えちゃったよ。そんなわけないでしょ、家のお兄ちゃんに限って。

あのグウタラ男にそんな激しい恋愛が出来るとは思えないね。


「……変な事考えるんじゃなかった…。朝から疲れちゃ、たまったもんじゃないよー」


私はぶんぶんと頭を振って邪念を振り払う。

これじゃ聖女みたいな華南ねぇと優しい海斗さんに悪いよねっ!(あえてお兄ちゃんはここに入らない)

きっと海斗さんが奥手なだけだよ。でも私の予感だとそろそろだと思うんだけどなーv

思わず脳内に華南ねぇのウエディングドレス姿を思い浮かべた。

………………うーん、うっとり(想像でか)

同性の私から見ても、綺麗なだろうなーvv早く見たいかも。

そう考えて玄関のドアを開ける。

部屋に入る前に、何となく空を見上げた。青くて、空気は澄んでいる。


「うーん、今日は結構いい日になりそうっ!!」


私は気が付かなかった。

私がそう思った時は、7割の確立で大体が外れるという事に、何故か今日は、気が付かなかった。

大概が、気が付いた時にはもう遅い時なのに。











6時間目の始まる直前。私の教室に真昼が訪ねてきた。あれま珍しい。

私から真昼のところに行く事はあっても、こっちに来る事って殆どないのに。

しかも見たところ、ここ最近で最高の機嫌の良さだ。何かあったのか?


「どーしたの?真昼。何か忘れたものでもあった??」


その確立は低いだろうが。真昼が物を忘れるなんて殆ど無い。

どうだ、真昼は完璧すぎて格好いいでしょー(誰に言ってるんだろうか)


「違う。姉貴から伝言。『今日はうちで夕飯食べましょう。海斗も来るわよ』だそうだ」


って事は、夕飯の献立考えなくていいんだ!ラッキー。

あ、でも久しぶりだな、海斗さんがこっちに来るの。最近忙しいみたいだったし。

くそ、真昼が露骨に喜んでた理由はここか。

ふふふふふ、そっちがその気なら…。


「じゃあ真昼、一緒に帰ろーねぇvvv」


「え…」


「だぁって華南ねぇがこうやって連絡して来たってことは、暗に『一緒に帰ってきてねv』って言ってるって事でしょ?嫌だ、とは言わせないよー?」


嫌そうな真昼に私が詰め寄る。もう勝敗は明らかだけどね。


「降参?」


「……分かったよ。授業終わったら迎えに行く。帰りの支度して待ってろ。じゃないと帰り支度が遅かったって言って先帰るぞ」


「りょーかいvv真昼こそ、クラスで女の子たちと戯れてたら駄目だからねーvv殴っちゃうから★」


実際そんな事やってたら、殴るだけじゃすまないかもしれないけど。

笑顔で真昼を見送ると、入れ替わりに次の授業担当の先生が入ってきた。


「どうしたんだ?相模。気持ち悪い満面の笑顔なんて浮かべてー」


「むむむっ!!!気持ち悪いとは何ぞや!!!可愛いって言ってよっ!!!」


はい、クラス一同大爆笑。私はお笑い担当かっての。





そんで放課後。

約束通り授業終了後、真昼は私を迎えに来た。やぁんvv何か恋人同士みたいvvvv

私と真昼はクラスの友達に軽く挨拶をして、学校を後にした。

入学した当初に比べて、私たちを冷やかす人はもう殆ど居なくなった。

何故なら私が笑顔で対応してあげるから。つまり私に勝てないと分かったから。


「ねぇねぇ、真昼。今日の夕飯何かなー?華南ねぇの料理、何でも美味しいから好きだけど」


「さぁな。今日姉さん仕事休みだって言ってたから、何か特別なものでも作ってるんじゃないか?」


おぉ、それは良いことを聞いたぞ?ラッキー。

お陰で足取りが軽くなる。すでに鼻歌を奏でんばかりのご機嫌さだ。

だが、夕日でオレンジに彩るはずだった空は、澱んだ雲に覆われていた。

まるでこれからの出来事を表しているかのごとく…。










海斗さんが来たのは7時になるちょっと前だった。

その時にはもう大体料理は出来てて、テーブルもちょっとづつ料理で埋められているところ。


「お邪魔します、少し遅れてごめん」


「うんにゃぁ、大丈夫だよ、海斗さん。もう少しで料理全部運び終わるから、ちょっと座ってて」


3時間遅刻する馬鹿が我が家には居るしね★

今日は華南ねぇも私も腕によりをかけて作っちゃったもんねっ!!

勿論味もかなり美味しいと自負しておりますよ。

最近は海斗さんが忙しくて、皆でなかなか食べるられなかったんだけど…。

私は皆で食べるご飯は好きだな。友達と食べるのより好きかも。

今日は珍しく海斗さんがうちに泊まっていくらしい。お兄ちゃんは良い感じに酔っ払ってくれている。

雰囲気としてはこのまま大声で歌いだしかねない勢いだ(よそでやってくれ。家族と思われたくない)

そうだ、邪魔モノ(兄の事だ)が居ない今のうちに、2人きりにしてあげよう。

もしかしたらもしかするかもしれないしね★


「華南ねぇ、私と真昼で洗い物するから、海斗さんとちょっと散歩にでも行ってきなよ〜」


はい、そこ。真昼クン。露骨に嫌な顔しなーい。少しは姉想いな弟になりなさい。

私の突然の申し出に、華南ねぇが返答に困っていると、海斗さんが華南ねぇの肩を抱いて「折角だし」といって外に連れ出した。

海斗さんは私の方にすっと振り向いて口パクで「ありがとう」と言っていた。

私は返答を満面の笑顔のVサインで返した。


「さ、真昼っ!たったと片付けるわよ!!」


「………何で俺まで…」


とりあえず文句はシカトの方向性で。











「暫く一緒に歩く事もなかったよね…。ゴメン、仕事が忙しいって、言い訳にするつもりないから」


私の隣を歩く海斗は、苦笑いしながらそう言った。

この人の、こういうところが、物凄く愛おしいと思う。


「ううん。私だって忙しいくしてるんだもの。お互い様よ。それに、偶にあってこんな風に歩くのも、悪くないと思わない?」


私がそう笑うと、彼は返事を極上の笑顔で返してくれる。

そして、ごく自然に、手を繋ぐ。

明日から12月。夜風は思った以上に寒かった。

けれど、海斗と繋いだ手だけ、暖かさに包まれていた。

このままがよかった。このままで居させて…。

けれど時は私の願いを却下し、絶えず流れて行く。

真剣な眼差しを、海斗が私に向ける。

お願い、その次の言葉を言わないで。


「……あの…さ。華南、君は…僕の婚約者だよね。…その…そろそろ結婚の事、考えていかないか?」


優しい彼の、優しい言葉。

それが今は、一番辛かった。

汚い自分に嫌気がさす。こんな優しい人が、傍に居てくれるのに。

私は知らず知らず、涙を流していた。

海斗も、それを見て息を飲む。

私はぐいっと涙を拭い、走り出した。

今、アノヒトに会いたい。

ただそれだけを想って。













あー、洗い物をするのがキツイ季節になったわねぇー。

洗い終わったらクリーム塗ったくんなきゃ(塗りすぎ注意)

さてさて。華南ねぇ達どうなったかなーvv


「ねぇねぇ真昼。華南ねぇ達、真面目にそろそろ結婚とかすんのかな??」


私の隣で憂鬱そうに皿等を拭いていた真昼が、少し間を空けて答えた。


「まぁ、そろそろそんな話がでてもいい時期だよな。俺としては、早く結婚してもらいたいもんだよ。そうすれば、姉さん、寿退社できて少しは楽できるだろうし」


あら、珍しく姉弟想いだわぁ。

そうこうしているうちに、近くでピピッと音が鳴る。

お風呂が出来たという音だ。全くもって現代社会は便利になったものだ(いくつだお前)


「真昼、先入ってきなよ。私、お兄ちゃん呼んでくるから」


あの男、既に寝てる確率もあるからな。

簡単に手を洗い、エプロンをつけたまま、私は隣の自宅に向かった。


「お兄ちゃん、あっちのお風呂できたー。真昼のあと、入ってー…」


ちょんまげ。その言葉が出なかった(何故ちょんまげ?)

お兄ちゃんはリビングには居なかった。なら私室か?

だが、お兄ちゃんの部屋からは、何と言うか、予想外の話し声が聞こえてきた。

女の性か、思わず耳をドアに近づけて、盗み聞きしようとしてしまう…。


「…それで何で俺の部屋に来るんだよ。…これじゃあ俺が泣かしたみたいじゃんか」


「……だって、私…」


むむ?この声はお兄ちゃんと華南ねぇ?

しかも、華南ねぇ、泣いてるのか??なんでなんで???


「……俺とお前はもう、終わってんだろ。ずーっと前に」


「それは…、分かってる。でも…でもっ!!!」


……あのー…、展開が何だか正にドロドロの昼ドラ状態のような気がするんですけどー…。

そうツッコミを心の中で言えるうちは良かった。だが。

次の瞬間、私は信じられない言葉を聞いた。


「……でも…、私は栄治の事、まだ愛してるんですもの…」


「…華南……」


ドア越しでも、二人が抱き合ってるような気配を感じた。

もし何か手に持っていたら、確実に床に落として、中の二人に気付かれるところだろう。

幸い、何も持ってなかったが。

華南ねぇが海斗さんを裏切るのも、お兄ちゃんが親友の婚約者とこんな関係になってるのも。

ぶっちゃけ信じられない。

…そう思うとだんだんムカついてきた。

だってだって、ありえなくない?

何イチャついてんの、2人して。内密に。

海斗さんはどうなんの?海斗さんと華南ねぇの幸せを願ってた私と真昼は?

そう思ったら、私は無意識のうちにドアをばぁぁぁんと開け放っていた。


「え…?」


「お?」


案の定、お兄ちゃんと華南ねぇは抱き合っていた。

華南ねぇは瞳に薄っすら涙まで浮かべてる。

普段なら、同性の私でさえくらっと来るその表情も、今だけは別だった。ただムカつく。


「…お兄ちゃんも、華南ねぇも…最っっ低!!!そんな人たちだなんて思わなかった…」


拳は硬く握られている。握りすぎて痛い。

でもそれ以上に心が痛かった。

ウラギラレタ、それが一番痛い。

そんな私の心中を知ってか知らないでか。ってか知らないんだろう。

お兄ちゃんは普段どおり、人を小馬鹿にした言い方を私に放った。


「盗み聞きってーのはいただけねぇぞ、廉。ほーれ、これは大人の話なんだから、どっか言ってろ馬鹿」


ぶち。わなわな。

廉ちゃん怒りパーセンテージ、更に上昇中。


「それになぁ、お前に最低扱いされる謂れはねぇぞ?これは俺達の話なわけだし」


「あ…あのね、廉ちゃん、…その…」


人を無関係扱いする馬鹿兄貴も。

言い訳しようとする華南ねぇも。

何もかも嫌になった。

今、何を言われてもきっとそう思ったんだろうが。

2人を見るだけで、黒い、ドロドロした嫌な感情が増えていく。

………ここに居ちゃ、駄目だ。

私は2人を1回強く睨み、踵を返した。

そのまま玄関にあったコートを羽織って、外に飛び出す。

すると目の前に立っていたのは、海斗さんだった。

何も言えなかった。いや、私の表情を見て、きっと気がついただろう、海斗さんなら。

私は苦い顔をして、でも足を早めて家から離れて行く。


「!!廉ちゃん!!!待ってっ!!!」


華南ねぇの言葉をシカトして、私は走り去る。

自慢じゃないが、私はなかなか足が速い。華南ねぇが追いつけるとは思えない。

そのまま私は、充ても無く街を彷徨う事になった。











「…どういうことか、聞いていい?栄治」


「………あぁ」


廉が飛び出した後、海斗は栄治と向かい合っていた。

栄治の隣には、下を向いた華南も居る。どうやら泣いているらしい。

海斗は、玄関先で会った廉の様子で、大体の事は分かっていた。

栄治から話されたのは、海斗が今まで知らなかった事ばかりだった。

海斗と出会う前から、2人は付き合ってたこと。

栄治は華南を好きになった海斗の為に自分から身を引いたこと。

栄治と別れて、海斗と付き合い始めてからも、華南がずっと栄治を想っていたこと。

全てを聞いた後、海斗には笑う事しかできなかった。

どれだけ自分がマヌケだったかを思い知った。


「…つまり、僕は君たちの間を邪魔する人間でしかなかったわけだ…。……華南、婚約は破棄するよ。勿論しっかり別れる。…栄治も、悪かったね。君の気持ちも知らないで」


「おい…、ちょっと待て、海斗…」


「…ゴメン。今はもう何も聞きたくないんだ。…僕、帰らせてもらうよ。………さようなら」


それは全てを拒否する言葉の力。

3人の絆を断ち切る言葉。

閉じられた玄関のドアが、酷く厚いものの様に、思えた。













廉は、ネオンの光が眩しい街を歩いていた。

独りになって、だんだんモノが考えられるようになった。

そうすると無意識に出るのは、大粒の涙だった。

もうどうしようもない思いが、次々に溢れる。

ほんの数時間前は、幸せだったのに。

皆で食事して、他愛ない話で盛り上がって。

本当の家族以上の絆で結ばれているんだって思ってたのに。

そう考えると、もう涙は止まらなかった。

子供みたいに、大声でわんわん泣いてやった。

格好悪いとか、そんな事はもう頭の中には無かった。

風が冷たい。涙で濡れた頬を切り裂いて行く。


「…もしかして廉ちゃんですか?どうしたんです?こんな所で大泣きして。先生と喧嘩ですか?」



















孤独の世界に、1人の来訪者。











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合併後の初めての作品。
わぁ…展開が重いよー。
でもこの話の中心の話だからなぁ。これは。
思わず自分で打ってて、某少女漫画を思い出しました。私の小学生の頃やってた奴かな。
でもあの話みたくはならないのかなぁと思ったり。
だってまず主人公がこの三角関係の恋愛の輪に1mmたりとも入ってない…。
ちなみにこれ、翌日が12月1日なので、そのまま12月に続きます。
さぁて、そろそろ終わりが見えてきましたよー。
久しぶりの更新でしたー。