〜September〜



はいはーい、もう夏休みも終わっちゃいました。
宿題?やってないよ。これからこれから(駄目学生)
今日は寝坊しなかった★褒めて欲しい、珍しく寝坊しなかったんだから。
お兄ちゃんは昨日からずっと部屋に引き篭もり、大塚さんと。
何だか新刊の締め切りがかなり切羽詰ってるらしい。
そこまで切羽詰らせるお兄ちゃんが悪いんだけどね。
でもまぁそのお金で食べていけるんだから、感謝くらいはしておいてあげる。
そんなわけで、とりあえず朝ご飯とお昼ご飯を大塚さんの分と一緒に作ったのさ。
んで、掃除・洗濯どっちもして、清々しい気分で登校中ですよ、今は。
勿論真昼とだよv真昼は面倒くさそうに大あくびしてる。


「真昼〜、面倒くさそうにしてると、そのうちお兄ちゃんみたいな堕落した人間になるよー」

嗚呼、見本が居ると説明しやすいと言うか。
それが実の兄ってのが何だか虚しくなるんだけどね。

「栄治さんは見た目不真面目だけど、中身は色々考えてるよ。まぁ…それを差し引いてでもあんな大人には、なりたくはないな………」

おぉ、珍しい。真昼がお兄ちゃんを庇った。でも最後はきっちり落とすのね………。
でも私もあんな大人にはなりたくないなぁ……。
残暑で、アスファルトが限りなく暑そう。
そんな事を思いながら、学校に入っていく。
まず開くのは真昼の靴箱。これはもう中学からの日課〜vv

「あ、ラブレター発見。排除します、排除します」

「……お前さぁ、少し『悪いかなぁ』とか思ったりしないわけか?」

「?何で?もう靴箱に入れれば排除されるくらい気づいた方がいいって。それとも何?真昼は全部読みたいわけ?はーん、ふーん、馬鹿ぁ!!」

それでも止めてあげるつもりは全くない。だってそれ程真昼が好きなんだもんv
回収したラブレターを何時もどおりビニール袋に入れて、自分の靴箱に向かう。
一つだけ紙があり溢れている靴箱、そこが私の靴箱だ。
あ、やっぱり入ってる、嫌がらせの手紙。名前なんて勿論書いてない。
けどねぇ、もういい加減誰が送ってくるかなんて丸わかりなんだけどねぇ。
私への嫌がらせの手紙を書いてくる子の大半が真昼の靴箱にラブレター入れとく子。
つまり私に毎回排除されてる子達だ。全く持って資源の無駄な事をするもんだ。
読んでももらえないのに書かれたレターセットが可哀想…。
私は靴箱いっぱいに詰め込まれた嫌がらせの手紙をラブレターと同じビニール袋にポイ捨て。

  「そもそもさぁ、靴箱に入ってた手紙なんて、あんまり読みたくないと思わない?真昼」

だって、臭そうじゃない?
真昼も少し間を開けて、「………そうだな」と頷いた。
ラブレターなら堂々と渡せばいいのに。そしたら堂々と邪魔してあげるから。
邪魔は絶対するよ?私だって真昼のことが好きなんだから。
恋敵(ライバルと読む)は少しでも減らさなきゃねー。
所詮この世は焼肉…じゃなくて弱肉強食ですよ、奥さん。

「廉―?何一人でぶつぶつ言ってんの?もう教室だよー」

話しかけられて、顔を上げればクラスの友人の顔があった。
あれれ???いつの間に現れたんだ?こやつは。


「あれ?もう教室??真昼は???」

「真昼君ならとっくに自分の教室に入ってったよ?……気付かなかったの?」

「全然」

「……朝から寝ぼけないでよねー」

周りを見れば、本当だ。もう自分の教室の目の前だった。
どうやら考え事している間に着いちゃったようですね、ハイ。

「いやー考え事してたら教室なんてあっという間だねぇ。おはよー皆」

生来の元気な性格と大きな声で教室の皆に挨拶すると、気のいい返事が多く返ってくる。
こんな私でも友人は多いんですよ?敵も多いけど。
夏休みで起こった話題なんかを皆で壮絶なテンションで話しまくる。
まぁ、新学期の最初の日なんてこんなもんだよ。
だれそれとデートしたーだの、旅行に行ったーだの、彼氏と別れたーだの。

「廉は何かあった?駿河君との進展」

急にふられてちょっとビックリした。私と真昼の進展〜?特にはなぁ。

「うーん…、花火大会一緒に見に行ったくらいかなぁ。ほら私、赤点いっぱい取っちゃって、補習の毎日だったんだよねぇ」

皆に大笑いされた。馬鹿とも言われた。くそう…。
でもでも真昼と一緒に勉強したもん!!!(呆れて勉強教えてくれた)
海にも行ったもん!!(保護者同伴でだけど)
……そういえば、花火大会の時のアレ、結局なんだったんだろう…。
お兄ちゃんと華南ねぇがキス………やっぱ見間違いだったのかな?
うーーーーーん、……なんて悩んでたら友人たちが先生が来たと知らせてくれた。
先生もどっか行ったのか、はたまた部活に打ち込んだのか、なかなかの日焼け姿を見せてくれた。
もし部活に打ち込んだんなら、彼女はいないんだろうな、先生。
そんな可哀相な事を思いつつ、あっという間に始業式なんて終わってしまった。

「廉、帰りどっか寄ってかない?カラオケ行こうって話になってるんだけど」

「おぉ!!!カラオケ!!!行く行く〜vvvv」

さっさと鞄の用意を済ませて皆のところに走ろうとする。
すると手を捕まれた。誰だよ、何のようですか。

「ちょっと待ってよ!!俺との約束、忘れたのかよ!!!」

手を掴んできたのは3組の山崎君。大してお話した記憶もございません。
はて?私、約束なんてしたっけ??記憶にもないんだけど。

「何廉、先約いたの〜?じゃあそっち優先しなさいよ。カラオケはまたのお預けって事でぇ」

「あ、ずるい!!私も行くっ!!!約束なんて覚えてない!!破棄します!!」

でも山崎君は手を離してくれなかった。あーぁ、カラオケが遠ざかっていく…。
うぇーん、久々に色々歌いたかったのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

「で!!!何の用!!??早くしてねっ!!私、今凄く機嫌悪いからっ!!!」

凄味ある私の言い方に山崎君は怯む。怯むなっ!!さっさと言えっ!!!!
しかし『言わないんだったらもう帰る』と豪語する私を前に、山崎君はとうとう覚悟が決まったらしい。
私の手をばしぃっ!!!と取り、

「好きです!!!つつつつつつ付き合ってくださいっ!!!!」

………私もすんごい告白したけど、こいつもなかなかやるなぁ…。本気でそう思ったよ、私は。
だってここはまだ人の多い教室。その中堂々とまぁ、よく大声で告白できたもんだ。
皆その堂々たる告白に唖然とし、静まり返ってる。
言った本人はその状況に気付くまで、十数秒かかっていた。
気付いた瞬間に私の手を離して、耳まで真っ赤にしていた。あ、可愛い。

「あああああああの!!!相模さんが1組の駿河君の事好きだって知ってるから!!!!!返事、後でいいからっ!!!………少し、考えてください」

そう言うと猛ダッシュで教室から出てってしまった。

「あららららー。………山崎君って足速かったんだねぇ…、知らなかった」

告白した山崎君が逃げたんで、視線は私に集中する。
うー、居た堪れないなぁ。ここは私も逃げますか。
バッと荷物を持ち上げて、私も山崎君に負けないくらいのスピードで教室を出て行った。
暫く私に向かった視線は消えなかった。
その視線の中に真昼の視線があったなんてこれっぽっちも私は知らなかった。





「たっだいまぁー。あ、大塚さん。今ご飯作りますから」

お昼時。家にたどり着くと大塚さんは勿論まだ居た。

「あら、廉ちゃんおかえりなさい。偉いですね、寄り道せず帰ってくるなんて」

あははー。妙な告白のお陰で皆に省かれたんですーなんて言えない。
お兄ちゃんの部屋を覗くと、……あ、唸ってる。
こりゃあかなりの延長戦に入ると見える。大変だぁ…。
お昼に焼きそばを作ってると、チャイムが鳴る。
しかし来客は私の返事も待たずに玄関を開ける。図々しい訪問販売員か、はたまた…。

「廉、いるか?昼飯もらいに来た」

あ、やっぱり後者だったか。勿論来客者は真昼だ。
一応チャイムは鳴らすものの、もうお互いの家の行き来は慣れっこ。
こんなの日常だから私はなんとも思わないんだけど………。

「あら?まだ入っていいと言われても居ないのに…。しかも『お邪魔します』の一言もナシで…。随分偉くなったのね、真昼君?」

  「げっ!!!!おおおおお大塚さんっ………」

「少し、礼儀を教えた方がいいですか?先生の原稿もまだまだ上がらなさそうだし…。久しぶりにお説教、聞いてみます?」

あの真昼が青ざめてる。こんな事出来るのなんて大塚さんくらいだろう。
真昼はとにかくこの大塚さんが苦手だ。
華南ねぇも怒るときはあるけど、やっぱり基本的に優しいのだ。
その点大塚さんは、怒る時はかなり怖い。既にお兄ちゃんで立証済み。
真昼も反抗期らしくて、色々悪さするんだけどね。
嫌、悪さって言ってもプチ家出するとかくらいなんだけど。
ある日、それが大塚さんにバレたんだけど、すんごかったんだよねぇぇぇ。

『たった一人の肉親であるお姉さんを哀しませるなんて、男がするんじゃない!!!』

と、それはもう何時間にも亘る大バトル。ってか一方的に真昼が怒られてた。
真昼としても、大塚さんの言ってる事の正当性が分かってるらしくて、何も言い返せないし。
でもまだ反抗心はあって。結構思春期、複雑だ。
まぁそれ以来、真昼は大塚さんを苦手の対象にしてたりするんだなぁ。
真昼は青ざめつつも激しく首を横に振り、嫌だと訴えてる。
ついでに私に救いを求める目線を送る。しょうがないなぁvv(←実は結構嬉しい)

「まぁ大塚さん、真昼いびりもその辺にして。お昼ごはん出来ましたよ、食べましょ♪」

「えぇ、そうね。お腹空いちゃったわ。じゃあ皆で食べましょう」

その皆の中に、お兄ちゃんは含まれない。
原稿上がるまで飯抜き、これが大塚さんのやり方なのだ。
本当に死にそうな時だけ、質素な料理がお兄ちゃんには与えられる。
………何だか犯罪者みたいな扱いだな、お兄ちゃん。
でもそうでもしないと、原稿上がらないし。しょうがないよね。

「おい、廉。飯の後、ちょっと話しある。俺んち来いよ」

ん?珍しい。真昼から話があるなんて。普段は殆ど、私からのお話なのに。

「片付け終わってからでいい?その後行くから」

「あぁ、それでいい。じゃ、ごちそうさん」

それだけ言うと、真昼はすっと席を立つ。

「きちんと食器は流しに片付けましょうね、真昼君」

まだ箸を手に持ちながら、大塚さんが言った。
真昼は暫く固まってたが、自分の使った皿などを台所に運びだした。
結局真昼は大塚さんに勝てないんだねぇ…。
あ、洗い物の前に、きっと泣いてるであろうお兄ちゃんにおにぎりでも持ってってやるか。
何て優しい、妹の鏡なんでしょ、私って。
この時ばかりは、お兄ちゃんは散々私に感謝をしていた…。
普段もこのくらい私に感謝してくれてもいいのになぁ。

「大塚さんにばれないようにしなよ。じゃ、私真昼の家に居るから」

バレたら、お兄ちゃんの命が3年は縮むな。





さぁて。お菓子でも持っていこうかな? 何の話だろーvvv嬉しいな、嬉しいなvvv
あ、でも『お前、宿題やってないだろ』みたいのだったりして。
それだったら真昼、期待させた罪を償ってもらうぞ?(←自分勝手過ぎ)

「真昼、入るよー?お菓子持ってきたから食べよー」

「ん。皿そこにあるから。麦茶でいいか?」

「うーん。それでいい。でさ、話って、何?」

どうか期待を裏切らないでくれよ?真昼君。

「ああ…。お前さ、3組の山崎に告白されてただろ」

「あにゃ?真昼、見てたの???」

これは意外。それとももしかしてかなりこの話、広まってたりする?
それだったら案外嫌だなぁ。もう噂の中心に立つのは勘弁したいんだけど。
私も可哀相だけど、山崎君も気の毒だなぁ。よぉく分かるし。

「………で、どうするんだよ?」

「どうするって…。何で??」

何で真昼がわざわざこんな事聞いて来るのさ?
普段はあんまし私に干渉したがらないのに。

「…きちんと答えは出してやった方がいいと思う。決まってるなら」

そっけなくいいますけどね、真昼サン?
あんたもまだ私に告白の返事返してないんですからね?
そぉぉんな意味も込めて、じろーっと見てやる。
すると真昼もいい加減その目の真意を分かってくれるようになってきた。

「……真昼が言えた義理じゃぁないでしょ」

ボソッと言ってやる。えーえ言ってやるとも。

「…俺は…、まだ決めてないからいいんだよ。お前こそどうなんだ?」

お?今日はやけに絡んでくるなぁ。本当に珍しい。
んん??これは…、これはもしかして…。

「真昼、もしかしてさ。実はちょっぴり、焼きもち妬いてる??」

すると真昼はどうでしょう!
こんな真昼はきっと生涯でも殆ど見られないと思います!!
全身、耳まで真っ赤ですよ!!??図星ですか?!図星ですね??!!
いや、今まで生きてた中でかなり嬉しいんだけど。
ここにお兄ちゃんが居たら、『お?青春してるねぇ〜♪』とか言ってからかってきそう。
でも真昼もとうとう腹を括ったらしい。反撃してきた。

「そうかもな。気になるのは事実だし。で、今度はお前が答える番だぞ?」

あ…、何だかすっごく嬉しいや。真昼にそういう風に気にしてもらえるの。
今までずーっと私だけが態度で示してたから、何かこう恥ずかしい気もするけど。
いやだなー、何か、もう、何と言ったらいいんだか。

「………おい、早くしろよ」

五月蝿い!!人が折角幸せに浸ってるんだから遠慮せんかい!!
でもまぁ、真昼も恥を忍んで聞いて来てくれたんだし。ここは答えるのが筋ってもんでしょ。

「ちゃんと断るつもりだよ。悪いけどね。確かに山崎君、面白い性格してるけど、私が好きなのはもう3年前から決まってるし」

はっきり、そうやって答えてあげたら今度は真昼が照れた。
ほら、ストレートな答えって結構言われると照れるでしょ??
でもそんな真昼が可愛くて。ますます好きだって分かったよv
そう思ったら私は自然と真昼を抱きしめていた。

「………何だよ、急に」

だってしたくなったから。でも真昼は嫌がんないよね。

「……べっつにー。…ただこうしたかっただけだもん」

ここでキスの一つでもぶちかましてくれれば私の進路、確定なんだけどなぁ。
真昼君にはまだその勇気はない、と。
男の人ってこういう場面で結構尻込みする人多いよね。
でもま、いっか。私は結構待てるし。
待ってる間、他の人に振り向く気も全くないし。
一途に真昼が覚悟を決めてくれるまで、待ちますよ。
待って、待って、待ってあげるから。
きっと私のこと、幸せにしてね?何時か抱きしめてね?


――――――私も、それまで頑張るから。