〜August〜 気分は最悪。 だって真昼とはぐれたんだもん。 周りを見れば、人・ひと・ヒトの山…。 この中から真昼を見つけ出すなんて、相当の運がなけりゃ無理だろう。 今日は年に1度の花火大会。ここの花火はとても綺麗で、遠くから来る人も多いらしい。 だからって多すぎだよ!!!私と真昼を引き裂かないでっ!! 色とりどりの屋台から、威勢のいい声がいっぱい聞こえる。 はぁぁぁ、ここに真昼が居ればなぁ…。 早く私を見つけ出して、真昼………。 ことの始まりは、私がこの前花火大会に誘った事からだった。 結局あの後更に1週間追試を受けて(先生には散々怒られた) 何とかテストも合格して(ギリギリ)やっと楽しい夏休みが始まったのだ(8月になってた) そんで今日は約束の花火大会。もう私は有頂天ですよ、そうでしょ、普通。 お気に入り(というか1着しか持ってない)の浴衣を華南ねぇに着付けてもらって、私はお兄ちゃんと真昼に見せに行った。 「ねぇねぇ、どーお?似合う?vv」 そう聞いたらお兄ちゃんはにっこり、笑顔で答えてくれたよ。 「あぁ、お前は本当に浴衣が似合うな。胸が無いからか?」 ムカチン。思いっきり足を踏んづけてやった。 お兄ちゃんは声にならない声を上げ、隅っこで足を癒してた。ザマミソ。 「ねぇ、真昼はどう思う??」 お兄ちゃんなんてどうだっていいんだよ!!!要は真昼!!私は真昼に見てもらいたくて…。 「あぁ、似合うんじゃない?」 珍しいお褒めの言葉と思うなかれ。 そうは言ったものの、真昼は1度も私のことなんざ見ちゃあいなかった。 「……本を読んでて、どーして私が似合う似合わないが分かるのかなー……」 私の殺気を感じて、真昼がこっちを見る。 今見たってもー遅いっ!!!! 「待てこら真昼――――っ!!!!レディにそんな扱いないでしょーーー!!!!」 「レディって言うんなら、レディらしく大人しくしてろよ!!!!」 ばたばたばたと私は浴衣の着崩れすら気にせず、真昼を追っかけ始めた。 私の怒りを敏感にキャッチしたのか、真昼も本気で逃げる。 いつもだったら5秒で捕まえられるのだが、如何せん慣れない浴衣だ、どうしてもスピードダウンしてしまう。 その様子を傍から見てる、華南ねぇとお兄ちゃん。 「あらー、また後で着付けしなおさなきゃねぇ」 「……いーんじゃねぇの?直してもすぐまたアレだろー……」 「駄目よ。女の子は、滅多に着ない浴衣を、好きな子に見てもらいたいもんなんですから」 「そーなん?……実はお前もそーだったり?」 「鈍感な誰かさんは、まぁーったく気づいてくれませんでしたけどね」 そんな2人の会話は、真昼を追っかけるのに夢中な私と、私から逃げるのに必死な真昼の耳には、届く事が無かった。 そして夕方。 「じゃあ華南ねぇ、行ってくるね!!」 金魚のワンポイントが入った巾着を手に、私は真昼と外に出た。 勿論私の要望どおり、真昼は本日男物の浴衣を着ている。 お兄ちゃんのお下がりだったから、少々大きめだったけど、何だか新鮮な感じだなぁ。 なかなか格好良いしvvv流石私の真昼vvvvv 花火の会場になっている川原を目指して歩いていると、やはり同じく浴衣を着て会場を目指す人たちと会う。 カップルも居れば友達同士って感じのも居る。 周りの人たちから見れば、私達ってやっぱりカップルに見える?見えるかな?? うふふふvvvそれならいいなぁvvvあ、そうだ。 「ねぇ真昼、華南ねぇたち、本当に行かないのかな?花火大会」 折角だから華南ねぇたちも出掛ければ?と提案したんだけどねー。 華南ねぇは、『おうちからでも綺麗に見えるから』ってやんわり言って、お兄ちゃんは『面倒臭い』の一言で切り捨ててくれた。 華南ねぇの浴衣、綺麗で好きなんだけどなぁぁぁぁ。 こんな日も仕事の海斗さんが可哀想…と、思わず同情。 「まぁいいんじゃないか?姉さんだってもう大人なんだし。花火大会だからってわざわざ外に出なくったっていいんだしな。……っと。そろそろ人ごみの中に入るぞ。ちゃんと付いてこいよ」 うー…、確かにそうなんだけどー…。 そういえば、華南ねぇ達が高校生の頃は何時もお兄ちゃんと2人で出掛けてたような気が…。 私と真昼は各々の両親と一緒だったんだけど、お兄ちゃん達は何時も別行動。 それってもしかして、今の私達の状況に結構似てる気がしないか?むむむ…。 何て考えてたら、少し真昼との距離が開いてしまった。 私は一生懸命手を伸ばして真昼を掴もうとする。 けど、その事に気づかない真昼は、どんどん遠くに行ってしまう。 「えっ!?ちょっと真昼!!置いていかないでって…わぁ!!!」 えぇい!!本当に多いぞ、人!!! 人の流れに流されて、結局真昼を見失ってしまった。 そして今の状況に至るといったところである。 一方の真昼も、廉を探していた。 「ったく!あいつ、人が言った側からはぐれやがって。…手間がかかるな…」 それでも探さなければいけない。 放っておくとろくな事にならないし、廉自身がかなり怒るだろう。 そうしたら姉さんは絶対廉の味方をするだろうし、俺に勝ち目はない。 それに心配じゃないわけではないから。…一応あいつも女だし。 とりあえず来た道を戻ってみる事にした。あとは廉が寄りそうな屋台を見回してみたり。 屋台の人の威勢のいい声がよく聞こえる。まぁ聞こえなけりゃ商売にならないだろうが。 案外俺は祭りの夜が好きだった。普段の夜は、あんまり好きじゃない。 祭りの夜は明るい。だから好きだ。『妙なもの』を見る回数もぐっと少なくなる。 だから逆に、祭りの日に人ごみ以外のところに行くのは妙に苦手だった。 不良も勿論たむろってるだろうが、それ以外にもたむろってる奴らがいる。 俺は『見える』人だから余計にそういう事に気を使わなけりゃならない。 「………頼むから妙なところで妙な事してるなよ…、廉」 あいつの性格を考えると、それを願うのは無意味な気もするが、一応願ってみる。 そこで俺はふと足を止めた。見知った顔を見つけたからだ。 クラスメートの吉田(下は覚えてない)だ。隣は知らない女の子だ、彼女か? 「お!駿河じゃん!!どーしたんだよ、お前も見に来たの?花火」 「あ…あぁ、まあな。でも連れがはぐれてな、今探してるんだ」 吉田はへぇっと言って、少し黙った。 「なぁ、もしかして連れって昼休みお前のところに来る奴?確か相模、だっけ?」 「!!!もしかして見かけたのか!?」 「あぁ、先刻あっちで………、木登りしてたぞ?恥ずかしくて声かけなかったけど」 嗚呼、あの馬鹿やってくれる。 どうせ『高いところからの方がきっと真昼が見つけやすい!!』とかぬかして自分が今浴衣着てることも忘れて登ってんだろうな…。 「スマン吉田、恩に着る。じゃあ登校日にな!」 そういって俺は足早に教えてもらった場所に向かって走り出した。 「はぁ、……………………………愛だねぇ」 そんな吉田の呟きは今年初めての花火の音でかき消されていた。 「あ、花火始まっちゃったー……」 廉は木の頂上で夜空に輝く花を見つめていた。 本当だったら今頃、真昼とロマンチックにこれを見ていた筈なのに。 「高いとこから見ても、真昼が何処にいるか、分かんないしねぇー」 それでもう一気に脱力。木から下りる気分にもなれない。 下を見れば、結構ちらほら幸せそうなカップルが見えたりする。 あームカつく。呪いたいー(最低) 私は今こーんなに惨めで悲しい思いをしてるのに、 何で下の人たちはあんなに幸せそうなんですか! 理不尽です、神様。今すぐ真昼にあーわーせーてー!あーわーせーろ!! 「でもあれだよなー、もし真昼が見つけてくれて合流できても、きっと第一声は『何やってんだこの馬鹿』なんだろうなー。可愛い彼女に言う台詞じゃないよねー」 この可能性は8割方正解だろうなー。10円かけてもいい(さり気にセコイ) どんどん花火は打ち上がる。上がるたびに、人々の驚嘆と歓喜の声、そして拍手が巻き起こる。 そんなの聞いてたら、余計に悲しくなってくるよ!! 「うー………真昼ぅ………」 「呼んだか?」 「呼びました。もっと大きな声で言ってみよ、おーい真昼―っ!」 「だからここに居るって」 ん?先刻から私と会話してるのは誰ぞよ?(ぞよって…) 隣斜め下を向くと、よいしょとばかりに登ってくる真昼が!!! 「ったく!!何やってんだ馬鹿。はぐれんなって言っただろ」 あ、正解。相模廉さんに10円贈呈です…。何てやってる場合じゃないですよ!? 「何で分かったの!?私の場所!!!」 愛ですか!?愛の力と信じていいんですね!? やっと登ってきた真昼は、私の隣に腰掛けて、話してきた。 「クラスの奴が教えてくれた。お前がここに登ってんの見たって」 ちぇ、何だ、教えてもらったのか。…まぁいいや、会えたから。 折角の特等席なんだから、もうちょっとここで花火を見ていくことにした。 「綺麗だーねー、真昼……」 「まぁ、そうだな」 「何かこう、ばぁぁっと自分に向かってくるみたい。そんで、あぁ、空って広いんだなーって思うんだー」 そんな風に言ったら真昼に笑われた。『お前らしいな』って。何か変な事言った?私。 手をぎゅっとしたら、握り返してくれた。珍しい。 この前から結構珍しいなぁ、昔は色々嫌がったのに。大人になったってことか? そうしたら、ぼそっと、でも私に聞こえる位の声で、真昼が呟いた。 「…心配したんだからな。…もう急に居なくなるなよ」 じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。 真昼にこんな優しい言葉言われたの、生まれて初めてかもしれない。 何か一瞬バージンロードが見えたよ(早い早い) だから私も素直になれた。握ってる手を少し強めて。 「うん、ごめんね……」 と呟いた。大きい花火が同時に打ち上げられた。 暫く黙ってみてて、ふと下を見た。 下は川原になってて、でも薄暗いので余り人が居る気配も無かった。 でも、不意に人影を見た気がした。しかもよく知ってる人たちを。 「ねぇ真昼、あれ、お兄ちゃんと華南ねぇじゃない?」 「え?………どこだよ…」 私が指差す先を見て、真昼も表情を変えた。 丁度花火が打ち上げられ、一瞬の明るさを与える。 その明るさで見えたのは、お兄ちゃんと華南ねぇのキスシーンだった。 「………え?な……何で?」 そんな言葉しか私の口からは出ない。 えーっと、お兄ちゃんと華南ねぇは幼馴染で、華南ねぇと海斗さんは婚約してて、お兄ちゃんと海斗さんは親友で…。 「…廉、このこと、事の真相が明らかになるまで誰にも言うな。分かったな?」 真剣な目をして、真昼が言った。 先刻見たのが幻影でも、冗談じゃないのがすぐ分かった。 私は何も言わず、ただただ頷いた。 もうよく分からない。 ただ、何だか嫌な予感がする。それだけは、確かに感じ取っていた…。 2004.7.18 |
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