〜July〜



暑いです、夏です。
蝉も忙しく鳴いている。
鳴くのは構わないけど、教室に入ってきてカーテンの裏あたりで鳴くのはやめて。
つぶらな瞳な君たちが憎らしくなってくるから。

「あー………、ぷーるに行きたいー」

「そーか。先生も行きたいぞ。だったら二度と1学期の期末に赤点取るんじゃないぞー」

「はーい。取るなら今度は冬にしマース」

そうだよ。夏休みなんだよ、今は。
本来だったらわざわざ学校になんか来なくてもいいし、
優雅に扇風機に当たりながらTVでも観てていい時期なんだよ。
それなのに今、学校に来ている理由は勿論。
1学期の期末テストで赤点を取り捲ったから。
いやね、きちんと勉強したんだよ?でもね、無理だったの。
それでも6教科中3教科は赤じゃなかったんだよっ?!(でもギリギリ)
頑張ったんだよっ!?(でも半分は赤点)
…………はい、分かってます。努力します、ハイ。
私の他にも数人の生徒が同じく暑さ&勉強で頭を悩ませている。
その中には勿論真昼はいない。だって学年トップだもん。
でも今日は一緒に学校に来たから図書室にでもいるんじゃないかな?
あと少しで今日の補習授業も終わりだし、後で迎えにいこ。
お昼は冷たいそうめんがいいかもー。

「………じゃあ今日の補習はここまで。あぁ、それと。今度の日曜、最後に追試テストがあるからな。きちんと勉強してくるように、以上」

うぅ!!!嫌だなー……。
しかも日曜のテストに合格しなくちゃ赤点取り消しにならないよ…。
……仕方ない、真昼に助けてもらおう…。
私は足早に図書室を目指した。
誰もいない学校は何だか寂しい気がするな。
今の校内の音は、運動部の掛け声だけが小さく聞こえるだけだ。

「さ・て・と!つーいた。全く、真昼も物好きだよねー、学校なんて用がなければ夏休みなんて 来る気にすらならないのに。ま、そんなところも好きなんだけどねv」

カラカラっと図書室のドアを開けると、中から心地よいクーラーの風が漂ってくる。
あぁ、クーラー効いてるって、すっごく幸せぇ…vv
はて、真昼は何処に………。
 
「本当にいいの?駿河君、今度の日曜日、付き合ってくれる?」

「あぁ、別に用事入ってないし、構わないけど」

…………ハイ?なーんか、聞いちゃいけない言葉、聞いたよーな…。
今、真昼デートの約束かなんかしちゃってませんでした?
気のせいかな?気のせいだよねぇ…………。

「じゃあ、10時に駅の改札口でいい?」

「分かった。じゃあ遅れないように行くから」

「そーしてvあ、私もう行かなくちゃ。じゃあ駿河君、日曜にねv」

その女の子がこっちに来るもんだから私は急いで隠れる。
何でって?知らないよ。
真昼はその子に手なんぞ振ってる。オイ、私はそんなことされた覚えないぞ?
でも聞いた。聞いちゃったよ。
デートの約束なんだね?そうなんだね?
ってかぶっちゃけ『違う』とか言われたって、信じないぞ、普通。
……………………邪魔してやる。絶対邪魔してやる。
その時の私は、図書室を全焼させるが如く、燃えていた………。





―――そして、運命の日曜日………

「なぁ廉、お前今日テストとかぬかしてなかったか?」

お兄ちゃん、ご飯食べながら話すの止めて。
私はきちんと口の中のものを飲み込んだ後、

「それより大切な事が今あるの。じゃ、私行くから」

ばたばたばたと用意をして、ばんっと家を飛び出す。
お兄ちゃんは呆れ顔をして、また朝ごはんを食べ始めてた。


 



真昼より早く家を出た私は、駅内の死角になっている場所で2人を待っていた。
たまに私を見て『何だ?こいつ』みたいに見てく奴が居るけどシカトしておく。
この前真昼と約束をしていた女の子はもう来てた。私より早く。
………はぁん…、そんなに楽しみ?真昼とでぇーと………。
10時少し前だけど……あ、真昼が来た。

「あ、待たせた?ごめん」

「ううん、私も先刻来たところなの」

なぁんて定番の甘々な会話なんぞしている。
あーもう、ム・カ・ツ・クvvv
そんな風に嫉妬の炎を燃やしていたらさぁ大変。
2人はさっさと切符買って、ホームに向かっているじゃあーりませんか。

「ヤバイ!!置いていかれる!!急がねば!!!」

私も急いで切符を購入(場所は大体の予想で)、電車に飛び乗った。




…………その頃の学校…。

「おーい、相模はどうしたー?」

「何か『愛のピンチ』でサボりだそうですー」

「そーか。あいつは追試1週間追加だなー」

そんな事、廉が知る由も無い…。









全くもってついてないと思う。
ほとほと私、大塚上総はそう思って、唸っていた。
昨日は暫く付き合ってた恋人に『君は仕事の方が好きなんだね』なんて言われてフラれるし。
日曜日なのに急に仕事が入るし。
明日から歩みの鈍い先生の原稿を急かしに行かなきゃならないし。

「はぁ、………休む時間、無いじゃない」

思わず滅多に吐かない弱音まで吐いてしまう。
勿論誰も側にいない事を確認済みの上で。
こう気とプライドが高いから、長く付き合える恋人も出来ないのかもしれない。
別に絶対男が必要とも思っていないが、寂しい時だって、やっぱりあるから。
でもまぁ、そんな事ばっかり言ってられない。
だって自分は大人で、仕事を任されている一社会人だから。

「……さて、では嫌な事はぜーんぶ忘れる為に、ぱぁっと仕事、終わらせて、お酒でも飲みに行くかな!」

そう大きく伸びをして、デスクに向かったその時だった。
真後ろから急に、声をかけられたのは。

「あのぅ……、お忙しいところ申し訳ありません。会議室の場所をお聞きしたいのですが…」

「ひゃう!?………え?あ…、会議室ですか?それならコチラですよ」

後ろに、気配無く立っていたのは、自分より幾つか年下らしい、男性だった。
いかにもエリートサラリーマンという感じの。
そういえば今日、色々な会社の有能社員を集めて某雑誌のインタビューをするとか言ってた気がするわねぇ…。
その何処ぞの有能社員さんらしいわね、どうも。
ここは某出版社だけあって結構散らばっていて、なかなか場所も分かりにくい。
私は案内をする為に席を立ち上がった。
男性はすまなそうな表情をし、後ろから付いて来た。

「失礼ですが、何処の会社の方ですか?」

万が一という事もないだろうが、一応聞いておく。
男性はそう聞かれて、慌てて私に名刺を差し出した。

「すいません、こちらこそ失礼でした。私、ういうものです」

渡された名刺を見ると、『○×株式会社 営業部長 但馬 海斗』と書かれいていた。
この若さで部長、有能社員であるはずだわ。

「私、この出版社に勤めさせていただいております、大塚上総と申します」

丁度名刺を切らしていたので、簡単に説明させてもらった。
まぁ、今後会う事もないだろうし。
すると但馬さんの方は少々考え、ぽんと古典的な思いつき状況をしてくれた。

「もしかして、栄治…じゃなくて、因幡悠里さんの担当者さんですか?」

「えっ!!?…えぇ、そうですけど…何故それをお知りになって…?」

「その因幡悠里…というか相模栄治の友人なんです、僕。  それに華南から何度か貴女の名前を聞いていましたし………」

もう一度ビックリしてしまった。
よく話を聞けば、この人は先生の親友で、隣に住んでいる駿河さんの婚約者だと言うのだ。
やはり世間は狭いものなのねぇと実感してしまうわ。
そうこうしているうちにいつの間にか会議室の前にたどり着いていた。

「あ、ここが会議室です。どうか今度の企画の成功の為、ご助力を」

「案内していただき、ありがとうございました。では、また今度会いましょう」

「先生の家でですか?」

「えぇ、二人で栄治を苛めるのもまた楽しそうです。あ、華南を入れたら三人か」

そう言って、但馬さんは会議室に入っていった。
それにしても。先生にあんな有能な親友がいらしたとは。
似合わないな、と最初は思ったのだが、案外逆なのかもしれない。
二人揃って均等が取れているのかもしれない。
そう思いながら、私はまた自分のデスクへと向かっていった。
今度の先生の新作が書き終えた暁には、お酒を持って皆で飲もうかしらと思いながら……。










まぁまぁまぁまぁ!!!!たーのしそうにデートしちゃってるんじゃない!?
ウインドウショッピングしたり、一緒にアイス食べたり。
あの真昼が笑顔ですよ!?奥さん、信じられます!?(はて、誰に言ってるんだか…)
お昼はちょっと洒落たパスタ専門店で食べて、
夏の日差しが眩しい若者の街を満喫している二人を見て、
私としては物凄く腹を立てていた。
今日はこのデートを邪魔するのが目的。勿論それなりの努力はしたよ?
でもね、こーいうのって、とことん嫌な方向に進むもんなんだよー。
あの子に足引っ掛けて転ばせてみれば、真昼が庇うように(いや実際庇ったんだけど)抱き寄せるし。
水をざばぁっと被せたら(よくバレなかったな)真昼にもかかっちゃって、
何かまるで恋人同士のように微笑んじゃったり!!!!
何?私、ピエロですか!?

「なぁぁに話してんのよぉぉぉぉ!!!くぅぅぅぅ!!!気になるぅぅぅぅう!!!」

傍から見たら、かなり変な人だろうなぁ、私。
でもいいの!!!愛を守る為だから!!!!
そんな感じに1人悶えていたら、夕日を浴びて歩く2人はどうやら駅に向かい始めたようだ。
勿論私もそれに密かに付いて行く。

「まさか最後に『バイバイのちゅー』なんかかまさないわよねぇぇぇぇ」

そんな事されたら、キレる。否、キレるどころじゃすまないかもしれない。
あ…、何かそんな事考えてたら涙出てきた。
鼻がつんとして、涙が止まらない。

「ま………真昼が他の人の事、好きになるなんて、嫌だよぅ………」

終いにはもう大泣き。道行く人々は、何だ何だと見ていくが、話しかける様子は無い。
はっ!分かってたよ、こんな空しい世の中だってのは!
だったらいいもん。誰に言われても泣き続けてやる。わーん。

「……お前、こんなところで何やってんの?」

「わーん、五月蝿い。真昼が私以外の女の子とデートしてたの、ちゅーしたらどう…し…て」

あら?目の前に見えるのは真昼さんではございませんか?
何で??何でここにいるの???
私がびっくりして涙を止めると、真昼がはぁぁと重い溜息を吐いた。

「お前な、あんな大声で泣いてれば、しかもどこかで聞いたことあるような声なら普通見に来るだろ。…で、お前はこんなところで何やってるんだ?」

う"っ…。真昼をつけて邪魔してたなんて言えない…。
怒る、絶対怒る。

「………か…買い物。で、道に迷って、わーんって……」

「へぇ、じゃあ何で俺の名前が出てくるんだ?………つけてただろう」

ば……バレてる…。しかし!!ここで非を認めるなんて出来ないっ!!
よし、こうなったら…。
 
「何のことー?廉ちゃんわかんなーい」

しらを切ろう。
ふっふっふ…これでこれ以上問い詰められまい!!
真昼は少し考え事をして、意地悪くニヤっと笑った。

「…本当のこと言わなかったら、来月の花火大会もあの子と行こうかな?」

………%$&’#”¥!!!!???(←声になっていない)
真昼のくせに……真昼のくせに私を脅そうなんて、いー度胸じゃぁないか…。くそう!!

「分かった…。うーんとね、この前約束してる時たまたま立ち聞きしちゃって、ムカついたから、今日ずーっと朝から邪魔しまくってたvあはvv」

笑って許して。
真昼は冷静さを保とうとしているが、今日あった不可解な出来事を色々思い出しているらしく、
頭には青筋が立っている。
 
「……!って事はお前今日のテスト!!!」

「うん?サボり倒したよ?当たり前じゃぁないですか」

あ、呆れてる呆れてる。
でもねぇ真昼。それくらい私にとっては重要だったんだよ?今日のこと。
全然分かってくれてないだろうけどさ、この鈍チン大魔王は。

「………ったく、後でどうなっても知らんからな。…ほれ」

そう言って真昼は私に手を差し出す。
そういえば泣いたまま座りっぱなしだったな。

「さっさと帰るぞ。姉さんが夕飯、作ってるだろうし」

「………ねぇ、先刻の娘と、キスした?ちゅーした?事と次第によっちゃあ今ここで大泣きして、真昼の名前連呼してやる」

もう私の脅しは十八番だろう。
真昼はまた、溜息を吐く。そんなに溜息吐いてると幸せ逃げるよ?

「………してないって。本当に。ただの友達なんだからするわけないだろ」

「………分かった、信じてあげる。でもね、あっちはその気なんだから。んでもって真昼は思春期真っ盛りの男の子なんだから、するわけ無いなんて次からは信じないからね」

「はいはい。黙って信じとけよ」

「それだけの甲斐性、真昼が身につけたらね」

ふーんだ、口では私のが上だもん。
とてとてと家路に着く。もう随分と日も暮れた。

「…真昼……あのねぇ…」

「?何だよ?」

「先刻、『話せば花火大会一緒に行ってくれる』って言ったよね?浴衣がいい、浴衣着て」

「………言ってない」

「…嘘つき。大塚さんに言いつけてやる」

「…着させていただきます」
 
真昼の腕にぴとーっと抱きつく。
真昼は呆れてたけど、嫌がりはしなかった。
えへへーvvv役得??(諦めただけだと思います)





2004.7.4