Recollections of dusk



〜Prologue〜



いつからだったろうか。
私が真昼を『幼馴染』以上に意識しはじめたのは。
確か、中学に入ってすぐだった気がする。
…あいつ、何か妙に女子に人気あったから…。
そして急いで華南ねぇに相談しに行ったんだ。
お兄ちゃんはそういうのに全く興味なさそうだったし、家がお隣りだったし。
それに華南ねぇなら、的確なアドバイスをしてくれると思って。

『華南ねぇ!!私ね、真昼が好きみたいっ!!!』

ドアを開けて、第一声。
中で洗濯物を入れていた華南ねぇはとりあえず驚いてたなぁ。
その後、聖母のような微笑を私なんぞに返して一言言ったのだった。
少しのんびり口調で。

『あらあら。よかったわねぇ、真昼』

そうだよ、気づかない私がアホだったよ。
華南ねぇは真昼の実のお姉さん。
華南ねぇの家は、真昼の家。
私と真昼は同級生。
帰ってくる時間も似てくる。
こぉぉんなでかい声で言えば、帰ってきた本人に聞こえることは。
………どうしてあの時考え付かなかったんだろう。
私の幼馴染で想い人の真昼クンは唖然とした感じで、私の真後ろに立っていた。



―――こうして私の一世一代の大告白は、無残にも私に生き恥をかかせて終わったのだった…。



「うっわっ。………嫌な夢見た…」

私こと相模廉はこの16年生きてて一番恥ずかしい出来事を夢見て飛び起きた。
目覚め最悪。
今日から素晴らしい高校生活が始まろうとしているのに、幸先が悪いっ!
ええいっ!!これもお兄ちゃんが昨夜イキナリ叩き起こしたせいだ!!
夜食くらい自分で作れってのっ!!!
思わず近場にあったクマのぬいぐるみをボカスカ殴るか弱き乙女。
……私の事だよ?

「さ・て・と。朝ごはんでも作ろうかなっ!今日は天気もいいから布団も干したいなぁ」

昨日まで少々長めの春休みをしていたのだが、ここ最近悪天が続いていたのだ。
そのせいで湿気た洗濯物は部屋の中。嫌だ嫌だ、じめじめして。
でも今日は晴れたし。あー全部干していこ。
洗濯物と布団を干すついでに、自分のベッドに行く前に力尽きたらしい男を蹴飛ばす。

「…痛ぇ。……何すんだ、この凶暴娘」

「そんなところに転がってるのが悪いの。…ったく、そーろそろ大塚さん来るんじゃなぁい?」

私がそう言うとお兄ちゃんは何時もの余裕ぶった顔とは反転、さぁぁぁっと青くなる。
お兄ちゃんこと相模栄治は、一応この家の家主。
私たちの両親は二人揃って外国でバリバリ仕事をしていたりする。
二人が外国に行くと決まった時、お兄ちゃんが『俺はここに残る』と言い張った。
んで当時友達と別れたくなかった私も便乗して日本に留まったのだ。
その時私はまだ小学生でお兄ちゃんは高校生だった。
よく許したね、父さん母さん。流石私たちの親(どういう意味だ?)
いやぁ、あの時お兄ちゃんが日本に残るって言ってくれてよかったとほとほと思うよ。
だあって私、英語、超苦手だし。
……でもお兄ちゃん、何であの時あんなにごねたんだろう?
やっぱりお兄ちゃんも友達と一緒に居たかったのかな?似合わないけど。
お兄ちゃんは高校を卒業後、進学しないで適当にバイトして暮らしてた。
けど、趣味で書いてた小説がなんとか賞っていうのに入ってそのまま小説家になったのだ。
大塚さんというのはお兄ちゃんの担当さん。お兄ちゃん最大の弱点その1。
結構サバサバしたキャリアウーマンって感じで私は好きなんだけどね。

「あれぇぇ?昨夜あんだけ騒いでおいて、まだ終わってないの?因幡悠里さん」

因幡悠里というのはお兄ちゃんのP.N。こんなお兄ちゃんでも実は人気小説家なのだ。
こぉぉんなぶっきら棒で妹を扱き使うような駄目男が書いた小説が売れるなんて、世の中分からないよねー…。

「……おい、今俺の悪口を心の中で言っただろ」

へっ!?顔に出てたっ!!?

「お前分かり安過ぎ。…と、お前そろそろ行かなくていいのか?入学式で遅刻なんてダサいぜ?」

なぁぁぁぁぁにぃぃいぃぃぃぃぃ!!!!???
ふと見上げれば時計の針は既に8:40を回っている。歩いていけるくらいの距離の学校だが、
確か8:50までには学校についてなければならなかった気がする。
ヤバイっ!!!完全に遅刻だっ!!!!!

「洗濯物あとよろしくっ!!あ、大塚さん来たらちゃんとお茶出してねっ!!!!」

急いで荷物を持って玄関を飛び出す。

「……遅い。本当に遅刻するぞ」

玄関前にはいかにも『ご立腹』顔の真昼が立っていた。
真新しい制服は私の制服によく似てる。そりゃそうだ、同じ学校だし。

「やぁぁぁぁんvvv待っててくれたんだぁvvv嬉しいvvvv」

「……昨日念を押すように『ちゃんと待ってろ、先行くな』って言いまくってたの、 お前じゃないか。待ってなかったら絶対怒るだろうし……」

うん、言ったよ。うん、待ってなかったら本気でキレてたよ。
だって一緒に学校行く為だけに同じ高校に入ったんだもん。
え?動機が不順?いいの、私には真昼に近づく女を駆除するという使命がっ!!!

「だってだってっ!!憧れだったんだもんっ!!!ほらぁ、よくあるじゃん。並んで登校しながら他愛ない話で盛り上がるのっ!!そして坂道を登ったら、真っ白な校舎が見えてくるのよ!」

「……うちの高校街中じゃん。坂なんてないない……」

「夢をぶち壊さないでっ!!!じゃあ坂の上にある学校を選ばなかった真昼が悪いのっ!!」

むちゃくちゃ言ってるってよく言われるけど、そんなことないよねぇ。
女の子だったらこぉぉんな夢、皆見てるもんっ!!

「…あら?廉ちゃんに真昼くん。玄関先で騒いで、どうしたの?」

「あ、大塚さん!!おはようございますーv」

「げっ!!!」

………あれ?大塚さんが来たって事は……。

「大変よ真昼っ!!こんな些細なことで言い争ってる場合じゃないわっ!!遅刻よっ!!!」

「だから最初からそう言ってただろっ!!!ほら、走れっ!!!!!」

そこからはもう力の限りダッシュ。ギリギリ入学式には間に合ったけど…。
嗚呼、私の理想の登校風景が……。
何だか虚しさを感じる……はぁ、先が思いやられるわ…。


ちなみに。私が家に帰った時お兄ちゃんは、大塚さんにきつぅく叱られてた。
何とか締め切りまでに間に合ったみたいだけど。


明日…明日からこそは、真昼と甘ぁい登校風景を実現させるのよっ!!!!





2004.4.13