Endless Romance




月が溶けていく


…望まぬ事ばかり、起こっていく


波に混じり


…逆に望むものは、一つも手に入らず


また空へと打ち上げられる


…ただその場に立ち尽くす


終わりの無い恋物語













Endless Romance     :::::::prologue:::::::    Ver マリア











「…マリア、お前は我がスオウ家の嫡子。ゆくゆくは女将軍となり王国を護る大事な任を仰せ任される人間なのだ。
…なのに、お前ときたら毎日読書ばかり。少しは自覚を持ったらどうなのだっ!!」

綺麗な赤紫の髪を持った少女マリアは、上から降ってくる聞きなれた言葉を完全にスルーして目の前の本へと意識を集中させた。
その態度が、ますます言葉を放つ人物―マリアの父―の機嫌を損ねる。

「お前という奴はっ!!!…これで才能があるというのならば別だが、お前の格闘センスは皆無だからな。
…全く、何故レイが先に生まれてこなかったのか…」

ピクっとマリアが反応する。
しかしこの台詞すらももう聞きなれた
何せ生まれてこの方、何度も聞いたからだ。
3日に一度は聞いている気がする。
しかしこのままこの場で色々話されるのも不快だ。
本はじっくり読むのがマリアの好みでもある。

「…あの、お父様?私、今本を読んでます。愚痴でしたら、どこか違う人の邪魔にならないところでおっしゃってください」

ヒクっと父親が怪訝そうな顔をする。
基本的にマリアは温厚で優しい性格である。
街の皆も100人に聞いて100人がそう答えるだろう。
だが、唯一つの例外があった。
それが自分の父親である。
昔から父親には厳しく育てられ、束縛されてきた。
その結果、どうしても父親と他人との態度に大きな隔てが出来てしまった。
普段の彼女しか知らない人から見たら、確実に驚くだろう。

「…お前という娘は…。父親に向かってその態度は何事だっ!!!」

思わず手を上げるが、もうそんな事ではマリアも怯まない。
ぶっちゃけ慣れてしまった。やられすぎて。
いくら武術の苦手なマリアにでも、物心ついたときから延々と同じ攻撃をされれば、見切るくらい造作ない。
たとえ武術家として名を馳せた父親相手だったとしても、だ。
しかしその手が振り下ろされる事はなかった。
飛んできた飛び蹴りによって、父親自身が吹っ飛ばされたからだ。

「ぐふぁぁぁ!!!!」

「姉上にふざけた事、言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇえ!!このクソ親父っ!!!」

更に追い討ちをかけるように、回し蹴りで父親を沈める。
そして何事も無かったかのような笑顔で最愛の姉に近付く。

「姉上ぇvvvv大丈夫だった?親父の言ってる事なんか気にしちゃ駄目だってー」

「えぇ、ありがとうレイ。頼りないお姉ちゃんでごめんなさい」

ほんわかした笑顔でマリアは弟のレイを見つめる。
レイは照れたように赤くなり、先刻の勢いは何処へやら、ギクシャクしている。

「へへ…姉上の為なら、俺なんだってするよっ!!!」

この少年、レイはマリアの大切な弟だ。
4歳離れた弟が、マリアには可愛くて可愛くて仕方が無い。
レイの方も、優しく美しく聡明な姉が自慢だった。
この2人、ご近所でも有名なブラコン姉弟だったりする。
そして先刻父親が言っていた通り、レイは格闘センスに長けていた。
今はもう実力ではきっと父を越えているだろう。
そう考えると、マリアは小さく溜め息を吐く。
この弟に家督が譲れたらどれだけいいか。
人には向き不向きがあるのだから、向いているレイが家を継ぐほうが理にかなっている。
だが『代々スオウ家は正妻が生みし、嫡子が継ぐ事』というふざけた決まりのせいで、それが出来ないのだ。
もう一度溜め息が出る。
それを見て、心配そうにレイが顔を覗いてきた。

「…姉上?大丈夫??やっぱりあのクソ親父の言ってる事気にして…」

余りにも不安そうな顔をする弟に、マリアはハッと気付く。
迷惑をかけた上、これ以上心配などさせるわけにはいかない。

「いいえ、そうではないの。少し考え事をしていただけよ、今日のお夕飯とか」

そう言って、街の男性陣が密かに天女の微笑みと呼んでいる笑顔を披露する。
姉上至上主義のレイも、これをみてほっとする。
マリアは手にしていた本を閉じ、立ち上がる。

「あれ?姉上どこかに出かけるの??」

「えぇ、これから読み終わった本を図書館に返してこようと思って。その後お夕飯の買い物をしていくから」

図書館、の単語を聞いて、レイは露骨に嫌そうな顔する。

「………姉上、気を付けてね。何処でどんな馬鹿野郎が姉上を狙ってるか分かんないから」

レイの言っている事が分からず、マリアは?を浮かべつつも「え…えぇ…」と返事をしておいた。
玄関に向かうと、レイも一緒についてきた。

「あら?レイも何処かに出かけるの?」

「うん、イーグルんとこ!夕飯までには帰るからっ!」

それだけ言うとレイは、唯一無二の親友の住む山まで走っていってしまった。
マリアはそれを見送り、自分も家の門をくぐる。
そして門の先の青空へと見やる。

「…今日も、綺麗な空ねぇ…」

眩しさに、視力を少し奪われながら。
それでもマリアは太陽を見つめた。












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マリア姉、何か性格違うような…。
そうか、父親とレイくらいしか出てないからか!


2006.4.9