Endless Romance




月が溶けていく


…見上げる空は揺らめく


波に混じり


…まだ見ぬ世界へ思いを馳せる


また空へと打ち上げられる


…とうとう踏み出す小さな一歩


終わりの無い恋物語













Endless Romance     :::::::prologue:::::::    Ver ルナ















「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇったい、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!!!!」

その超絶でかい声は城中に響き渡った。
音波攻撃をまともに受けた目の前初老の男は見事にひっくり返っている。
攻撃した本人の少女は肩で息をしつつ、それでも戦意を失わぬ瞳で男を睨みつけている。
一体何事かと集まってきた大臣やメイド達もオロオロ部屋の中を盗み見ている。
ようやくダメージから立ち上がった男は、憤怒の様子の少女を見て少しビビりつつも話を続けた。

「し…しかしだな、ルナ。これはもう決定事項なんだ。頼む、ワガママ言わずに…」

「ふざけないでよっ!!!何で私が好きでも無い奴と結婚しなきゃなんないのよっ!!!」

ルナと呼ばれた少女は、大声で文句を言い続けている。
もし彼女に足があったら、仁王立ちでもしているところだろう。足があったら。
ルナに足は無かった。勿論目の前の男にも。
そもそもここは地上ではなかった。
海の底。それがルナの住んでいる場所だった。
本来人間ならば足がある部分にあるのは、魚のような尾。
ルナ達は人魚と呼ばれる亜人種である。
一生の大半を海中で過ごし、海に還る。
陸上の生き物達のと交流は薄く、独自の文化を築いていた。
ルナはここ周辺に住む人魚達の王の末娘という地位にあった。
そして目の前にいる男は勿論、ルナの父親である王である。

「いやいや、聞けば彼はなかなかの人物らしい。きっとルナも気に入る…」

「そぉぉぉいう問題じゃ、無いわっ!!!私が言ってるのは、何でっ!見も知らない、好きでも無い奴とっ!!結婚しなきゃなんないのかって事よっ!!!」

大声で抗議をしつつ、ルナは細腕で素早いパンチを繰り出す。
父王にはそれを避けるのは不可能で苦しそうに一撃一撃を受けている。
そこに優しげな表情をした王妃が助け舟を出した。

「でもねルナちゃん。もう決まっちゃったのよ。それに、会ったことも無いんだから、悪い人かどうかもわからないじゃない。
会ってみたら好きになっちゃうかもしれないわよ?」

王、助け舟に感涙。
ルナはまだ拳を握り締め、顔を険しくしている。
流石に母親は殴りそうにも無かったが。

「でも母様!会った事もないのよっ!?」

「大丈夫、これから会えるわ〜」

「私の気持ちはっ!!!」

「とりあえず結婚してみれば?その後で、離婚したっていいんだし…」

思わずルナも脱力しかけるこの対応。
母親と喧嘩するのは、苦手だった。
まぁそれは兄妹親子全員に一致する事だが。
しかしここで負けるわけにはいかない。
結婚がかかってるのだ、結婚が。

「しかも…しかも相手、有翼人っていうじゃないのっ!!!ウチの種族と仲悪いんでしょっ!?」

「だからお互いの架け橋になるようにって、結婚話が持ち上がったんじゃないか…」

「そんなら父様が結婚すればいいでしょっ!!!」

胸倉掴む勢いで(でも人魚だからほぼ半裸)詰め寄るルナ。

「でも、決まっちゃったから」

母親の一言が、ルナの全てをぶった斬る。
それ以上何も言えなくなってしまったルナは、拳を無茶苦茶握り締めて猛スピードで泳いで行った。



























ルナは海から上がり、岩場に腰を下ろしていた。
今は丁度夜で、人気も無い。
とりあえず1人で思いっきり泣きたかった。

「…父様も母様も、嫌いだっ!!勝手に人の人生決めやがって…」

まだ16歳だ。
これから恋をして、ちょっと悪戯をしたり、冒険をしたりしたいという願望だってあった。
それを全て、異種族間の架け橋なんていう押し付けられた役目の為に諦めなければならないのか。
そう思うと、また涙が出てきた。
だが、あれだけ嫌だと言い張ったのに諦めてくれなかったという事は、これは回避不可能なんだという事はルナにも流石に分かっていた。
だからといって、ただ大人しく結婚するのを承諾するなんて絶対に嫌だ。
家でをしてみようかと思ったが、何の目的もなく彷徨えるほど、海も甘くは無い。

「はぁぁぁぁ、私、このままお嫁に出されちゃうのかな…」

もしかしたらおっさんかも知れないし、そもそもルナは有翼人なるものを見たことがない。
そもそも人間すらまともに大して見たことが無い。
陸への憧れは、ある。
元々ルナは好奇心が旺盛だ。
だがそれと同時に、出来る事と出来ない事の区別がつく位、大人でもあった。
心は晴れないままだったが、ここに何時まで居ても状況は変わらない。
そろそろ海へ帰ろうか、と飛び込もうとした時。
バサッと何かがかけられた。

「えっ!!?な…何これっ!!!あ…網っ!?」

ルナにかけられたのは、漁業用の網だった。
人魚の亜人種は滅多に人の前に出ない為、珍品とされているというのは有名な話だ。
もしかしたら、人間に姿を見られて捕獲されたのか、と思い、力いっぱい抵抗する。
が、その網は緩まるどころか逆に締まって、ルナの動きを制限させた。

「やぁぁぁぁだぁぁぁぁ!!!何これ何これっ!!!うざったーいっ!!!とーれーろ!!!!」

「…むぅ。五月蝿い実験体が掛かった…」

それでも尚ジタバタ暴れていると、近くで声がした。
ルナはその声の方へ向かって思いっきり睨みつけた。
月明かりの下、目の前に立っていたのは、素敵な王子様でもなく、素敵なおじ様でもなく、いかにも怪しいと言わんばかりの風体の男だった。
髪は伸び放題、ローブは何時洗濯したのか分からない位汚れている。
怪しいにプラスして汚いも付け加えたい。

「うげげげ、こんな変な奴に捕まるなんてっ!!!オイコラそこの!とっとと網外せっ!」

「…それ、魔法の網だからむやみに動くと余計に絡まる……」

「だ・か・ら!!はーずーせー!!!!」

「嫌だ。お前は、今度の魔法の実験体…。この魔法は人魚じゃないと意味がない…」

ルナの抗議も空しく、男は網を引きずり浜辺までルナを連れてきた。
初めて水から遠く離れて(と言っても十数メートル)ルナはパニックになる。
が、もう網内で暴れまわる程のスペースは残っていなかった。
男はそんなルナを気にする素振りさえ見せず、何やら砂浜に魔法陣らしきものを描いていく。

「ななななな、何やってんのかなぁねぇ!」

訳の分からない事に巻き込まれている気がした。
思わず声もどもる。
魔法陣を描ききった男は、呪文の詠唱を始め、何やら訳の分からない薬をルナに振り掛ける。
その匂いが気持ち悪くて、頭がクラクラした。

「ちょ……何これ、気持ち悪い…」

詠唱に呼応するように、男が描いた魔法陣が光を発する。
そのうちルナも目を開いていられないくらい明るくなり、ルナは意識を失った。














目が覚めた時、ルナは妙な清々しさを覚えた。
これだけ長く水から離れていたら、不快感や気持ち悪さを感じてもおかしくない筈なのに。

「私…どうして…」

ゆっくり目を開く。
すると先刻の漁業男(勝手に…)がルナの身体や髪や足をぺたぺた触っていた。
ルナは顔を真っ赤にして、右手を振り上げた。

「せせせせせせ…セクハラぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

右手は男の左頬をクリーンヒット。
男は踏み切れず、大きく後ろに吹っ飛んだ。

「……何」

「何じゃないわよっ!!!うら若き乙女の素肌に触れようなんて、いい度胸じゃないっ!!!」

「…私は実験の結果を調べてただけ」

「だからって触っていいわけないでしょっ!!!…って、じっ…けん?それって…どんな…」

そういえば先刻何か変な表現は無かっただろうか。
思わずルナは先刻の事を思い出す。
この変な男に触られていたのだ、身体や、髪や、『足』を。

「なっ…!!!何で足がっ!?わ…私の尾は!?」

「…成功」

男はにやりと嫌な笑いをする。
ルナはキッと気丈にも男を睨み、問い質す。

「私の尾をどうしたのっ!!!何で私に足があるのっ!!!答えなさいっ!!!!」

すると男は怒鳴られているのにもかかわらず、いやらしい笑みを浮かべたまま話す。

「…私の魔法実験で、お前の尾は足に換った。ただ、それだけだ」

「どーすればいいのよっ!!家に帰れないじゃないっ!!!」

「水に浸ければ変化する」

そう言われて、ルナは早速海へと向かう。
が、今までと感覚が違いすぎて立ち上がる事さえ困難だった。

「陸を…っ!歩くのが…こんなに大変だなんて…思わなかったわっ!」

歩くというか、殆ど這う状態でルナはやっと海に辿り着いた。
恐る恐る足を水に浸すと、不思議な事に、何時もの尾が戻ってきた。

「こんな事が…っ!」

驚いているルナを他所に、男はブツブツ言いながら海岸を去ろうとする。
それに気がついたルナは大急ぎで男を呼び止めた。

「ちょ…ちょっとちょっと!!!ねぇ、これ、もう1回足にする事って出来ないの?」

男はのっそり振り返り、ルナの尾を指差した。

「乾かせばまた足に換る。そういう魔法だ。効力は…そうだな、1年ってところか…」

1年。その数字にルナは息を飲む。
もしかしたら、これはチャンスではないのか。
自分の、自由を手に入れるための。

「…なんだ、帰るのではなかったのか」

男の問いに、ルナは悪戯をするような笑みで答える。

「………帰らないわ。…だって私、これから陸に家出するんだもの!」

その言葉に男は反応する。

「…陸で暮らす人魚…。それはとても興味深い…」

にやり。伸び放題の髪を夜風がさらう。

「偶然こんな事になっちゃったけど、おっさん、とりあえずありがとうっ!」

先刻まで文句を言いまくっていたのに、今度は礼をいうルナに少し男が驚く。
ルナは浜辺で歩き方を練習し、慣れてきたところで街の方へ向きを変えた。

「そうだ、私はルナ。オルカ・ルナ・シーナっていうんだ、おっさんは?」

闇色に包まれていた空は何時しか白み始め、鳥達が囀りだす。
光がルナの髪を絵画のように染めた。

「…私の名前は、ミスト。…この先の街の郊外に住んでいる。…何かあれば訪れるがいい…」

「ふーん。案外やさしーんだ」

「いや、実験材料に使うだけだ」

あはは、とルナが笑い、次にミストの方を見た時には、すっかりその姿は消えていた。

「…不思議なやつー」

だが今のルナには大して気にならなかった。
未知の世界への一歩を、踏み出そうとしているのだから。









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ルナもある意味書き易い(勝手に暴走して話を作ってくれる為)
ミストたんとうじょー。


2006.4.9