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Endless Romance 行こう、あの街へ きっとそこには何かがあるから 絶対に見つけ出してみせる この命はその為に生まれたのだから Endless Romance :::::::1::::::: Ver ハルディラ 家を焼き、一族から解き放たれたハルは一つの街を目指した。 そこは300年前自分が死んだ地。 あの男に裏切られた地。 そこにはきっと繋がるものが残っている筈。 それにあそこには知り合いも住んでいる。 搾り出せば情報も出てくるだろう。 「…どんな事があっても、見つけてみせる、あの男…!」 思い出すだけでも腹立たしい。 そもそも他人を信用していた自分にも腹が立つ。 あの笑顔に。 一時でも共に生きることを夢見た自分が愚かだったのだ。 だから、落とし前をつけなければならない。 その為の転生。 その為の命。 「…さて、行くとするかのぅ」 あの忌まわしき最後の地へ。 そう、あの地で人の心を棄てたのだ。 その街は最後に見たものと大分様子が変わっていた。 昔はこんなに大きな街ではなかったし、人も少なかった。 が、それはゆうに300年以上も前の話である。 それだけ時が経てば変わりもするだろう。 「…しかし、これでは探し辛い…」 だがハルは街には入ろうとせず、街の外れの森へと足を向けた。 それを見た門番の兵士が大急ぎでハルを止める。 「ちょっとお嬢さん!そっちは森だよ、危ないんだよ!! もうじき日も落ちるし、早く街に入りなさい!!」 しかし少女はその忠告をまるでスルーし、森のへずんずん進んでいく。 だが兵士もまだ10代前半の少女が黄昏の森へ入るのを見逃すわけにも行かず、少女を追いかける。 が、少女の足が森の入り口で止まった。 その行動に兵士はホッと安心する。やはり怖くなって足を止めてくれたのだ、と。 そもそもこの森は地元の人間ですら滅多に訪れる事の無い魔の森だ。 ここには大昔から化け物が住み着いているらしいとか色々噂がある。 だから例え職務と言えど、この中に入るのはゴメン被りたい事だった。 後はこの少女を保護して日誌を書いて、下宿に帰るだけだ。 きっと下宿先の娘さんが美味しい夕飯を作ってくれている筈だ。 娘さんのはにかんだ笑顔が一日の疲れを癒してくれる。 そんな事を考えていた。 次の一瞬までは。 森の入り口で立ち止まった少女は、兵士に聞こえない、というかわからない言語で何かを唱え、手を大きく広げたのだ。 すると森の様子が一転した。 風景は変わらない。だが雰囲気が全く変わっていた。 そして少女はまた森の中へと進んでいく。 驚きと恐怖に支配されていた兵士は少女を呼び止めることすら出来ない。 が、少女が一時止まる、そして兵士に振り返る。 「…用事があるのでは?この先に住んでいるのは薄汚い錬金術師が一人住んでいるだけだがな」 少女の問いに、兵士は精一杯の力を振り絞って頭を横に何度も振る。 少女は「そう…なら入らないほうが良い」とだけ言って、森の奥へと入っていった。 少女が森の奥へと消えると、森はいつもの状態に戻る。 兵士は思わずそこに座り込む。 いきなりドッと汗が出てくる。 交代の兵士が明らかに様子がおかしい自分に走り近づくのに気が付く。 あまりの恐怖に、兵士は森の奥へ進んでいった少女の事など頭からなくなってしまった。 ハルは周りを気にせずスタスタ森の中を進んだ。 森特有の動物達の気配が全くない。 緑が美しい森なのに、10人中9人はこの森に恐怖を抱くだろう。 残りの1人にハルは属しているのだが。 暫く歩き続けると、ボンヤリと木以外のものが見えてくる。 近づいて行くと、それが石造りの建物だと言うことが分かった。 ハルが家の前に立つと、自然と門が扉が開く。 家の内部に入ったとたん、ハルの近くに人の気配が近づく。 しかしハルはそれに驚くことなく、普通に言葉を投げかける。 「…久しぶりだのう、。300年振りか」 「…あぁ、ハルディラ。また貴女に会う事が出来る日が来ようとは…」 ハルの背後には長身の男性が立っていた。 「ほんに、久しいな。…だが、300年経っても相変わらず汚らしい姿だのう。いい加減に風呂にでも入れば良いだろうに」 「あぁ、ハルディラ。私に会いにくれくれるとは、光栄だよ。さあそこに座るがいい」 ハルは男に勧められるがまま椅子に腰掛ける。 男は上機嫌で台所からお茶を持ってくる。 「ふん…。おぬしほどの男がわしがここに向かってることなどとうに知っていただろうに。」 「ふ…私は魔法使いでも占い師でもなく、錬金術師だ。君がここに来る事などどうやって知ることができようか。あぁ、それにしても本当に懐かしい。300年前のあの日に戻ったようだ…」 そういい、男はハルの髪をすいとすくい、口付ける。 ハルはそんなことには動揺すらせず、男から髪を離す。 「分かっているのだろう、私がどうして生まれ変わり、ここに来たのか。本来ならば己が死んだ場所など二度と来たくはない。だが…」 ハルの表情が憎しみに染まる。 それを男はうれしそうに見つめていた。 「あぁハルディラ、憎しみに染まる君の顔は何よりも美しい…。分かっているよ、あの愚かな王子の事だろう?」 「世辞などいらぬわ。まだわしが子供なのは変わりない」 男の世辞など一蹴し、ハルは続ける。 「わしが、こうして生まれ変わったのならば、あの男もまた生まれ変わっているのだろう?知っているのなら、話してもらおうか。ミスト…」 ミストと呼ばれた男は、暫く黙って考えた後、口を開いた。 「…流石大魔女ハルディラの名を持つ者だ。全てお見通しというわけか。…いいだろう、教えよう。奴の情報を、私が知る限り」 ハルは男の情報のみに耳を傾ける。 「君の予想通り、あの男も現在に転生している。そして現在この近くの街に来ているんだよ。それが。 運命の巡り会わせと言うべきか…、ちょうど君がここに来たのと同時期にね。…君が奴に復讐するというのならば、私は喜んで手を貸そう」 あの男がこの近くに来ている。 その言葉を、ハルはゆっくり飲み込む。手に汗を握るのが分かる。 口元は少女に似合わないくらい上がっていた。 あの悲しみは海よりも深く。この恨みは闇よりも暗い。 ハルは立ち上がる。 「…有益な情報、ありがたく思うぞミスト。だが手出しは無用。この憎しみは、この恨みは自分の手で果たさねば気が収まるわけが無い…!」 その言葉にミストは驚く事も、残念がる事も無かった。 ただニヤリと口元をいやらしく上げる。 「わかったよ、ハルディラ。だが私の力が必要になった時は、遠慮せずに言ってくれ。他でもない君の為なら私はいくらでも策を考えるよ」 そういってハルに傅く。 いい大人がまだ年端もいかない少女に跪く様はなかなか異様だ。 だが、それを気にする人物もまた、この場にはいなかった。 あの男がこの街にいる。 そう思うとハルは逸る気持ちを抑える事が出来なかった。 あの男の眼差しを、言葉を、魂の形を忘れる事は決してなかった。 「…絶対探し出してやる…。あの男を私が見間違う筈もない…。探し出して見せるぞ…、ギルバートっ!!!!」 城壁は近づく。 魔法でひらりと城壁の上に舞い上がると、ハルは街を見下ろした。 そこは300年前の面影を僅かに残して、大きく変わっていた。 そもそもこんなに大きな街ではなかった気がする。 だが、大きさなどハルには気にもならなかった。 ハルが街に着く数刻前、街を見回る2人組がいた。 「うん、綺麗で活気のある街だね、ベル。治安も懸念するほど悪くない。良い街だよ」 にこやかに、金の髪を風になびかせる青年は、隣に控えるベルと呼ばれた黒髪の騎士にそう言う。 「はい、この街は領主の善政、ギルドや貴族各家も安定しております。珍しいケースですね」 うん、と金の青年は答える。 「どこもこの街みたいに平和なら、素晴らしい事なのにね。今回この街の視察を引き受けてよかったよ。こんな素晴らしい街だとは知らなかった」 そう言いながら、手を振ってくる街の子供達に手を振り返す。 金の青年の名はギルバート・D・ロイグロリアといった。 17年前、このロイグロリア王国第三王子として生まれた者だった。 本来王都で王族である家族達と一緒に暮らしていたのだが、今日から約1年、この商業都市ミネルバに視察目的で滞在することとなっている。 ギル自身、華美や目立つのは好きではないことから、護衛はベル一人だが。 それで十分なくらいこのミネルバは治安が良かった。 「父上にこの街の視察の打診をされた時に、「行かなければ」と思ったのは神のお導きだったのかもしれないね」 父親に、この街の視察に行かないか?と打診された時、即座に「行きます」と言った。 何故かこのミネルバの名前を聞いたとき、切ないような、懐かしいような妙な感覚を覚えた。 そして「何が何でも行かなければ」という気持ちにさせられた。 この街に着いた時も、何故か「懐かしい」という感じがした。 その辺りは未だ理由が分からず不思議だが、確かにこの街に来てよかったと素直に思えた。 少し歩くと、随分大きな広場に辿り着く。 そこは街の人々の憩いの場になっているらしく、多くの人々が思い思いの時を過ごしていた。 すかさず隣の騎士・ベルートがその広場の説明を淡々と始める。 「ギルバート様、こちらは出会いの広場、と呼ばれている広場です。この街の建設当時からあるこの街の1・2を争うくらい古く大きい広場だそうです」 運命の相手を願うと、その相手に出会うという伝説…というかこの広場にまつわる話もあるらしく、特に恋人達に人気の広場らしかった。 ベルの口からそれを聞くと、ギルはニヤリと笑う。 「いいねぇ、そんな話が伝わってる広場なんだ、ここ。ここで僕やベルの運命の相手も見つかればいいのにー…」 するとベルは眉をぐぐっと上に上げる。 「…ギルバート様はこの国の第三王子たる人物です。このような広場で運命の出会いが出来るとは私には思いかねます。 …それと、私自身においても、そのような相手を願ってはおりませんので、出会う事もないかと…」 至極まじめに返されて、ギルは少し残念そうだ。 真面目一徹なのがベルのいいところだが、たまには軽口に乗ってくれても…と思ってしまう。 それはベルが一番の友達でもあると、ギル自身が思っているからなのだが。 「…まぁベルは女性が苦手だからね。まずはそこから何とかしないとねー」 ギルがそう言うと、ベルは顔をしかめる。 それが面白い、とも思うのはやはり友人のような気持ちでいるからだろう。 ギルは広場にあるベンチに行儀よく座った。 街の子と思われる少年が駆け回っているのを見つつ、ベルを自分の隣に座らせれる。 最初は拒まれたが、面倒なので「命令」と言って有無言わさず座らせた。 「平和だねー」 「…そうですね」 「ロイグロリア王国って、基本的に平和な国だよね。他国からは遠く海に隔てられてて、内乱も殆ど無い。物語にあるような戦争なんて、ここ何十年起こってないんだか」 それは凄く良い事なのだが。 時にそれが将来平和ボケに近づくのでは?とかも思ってしまう。 やはり危機管理は必要だと思う。 「…今のこの平和は、ギルバート様の遥かご先祖様が築き上げられたものだと言われています。それ以前は戦の絶えない土地だったとか。 そしてその平和を、以降の王族の方々…ギルバート様方が守ってくださっているのです」 「僕はなにもしてないよー」というが、きっとベルは聞いていないだろう。 自分の中に入っちゃってるから。彼には時折そんな時がある。放っておくのが一番だ。 「…でも、その争いを鎮めたのって、一体どうやってなんだろうね?ベル知ってる?」 ギルの問いかけに、ベルも現世に戻る。 「実のところ、その方法は現在残されていないのです。歴史書等当時の様子を知る事の出来る書物は多く残されているのですが、 争いを鎮めた部分だけは何故か1つも触れられておりません。それがどんな力だったのかも、全く想像もつかないのです。 それにそれほど大事な事を歴史書などに1つも残されていないので、多くの歴史学者たちが様々な学説を論議しあっている状態です」 他国介入説や神降臨説、星からの侵略者説などもあったりするらしい。 ギルはそれを面白半分、既視感半分で聞いていた。 不意に頭の中で、声がする気がした。 それと比例して、ベルの声や、周りの音が消えていった。 「…分かった。こ…に………まえ………おう」 後ろの建物は少々大きさが違う気がするが、ギルにはそこが先刻まで居た広場だと分かった。 ベンチの近くにはシオンの花が綺麗に咲き誇っている。 目の前には女が居た。 先ほどの言葉はその女が発したものだった。 女は変わった格好をしていたが、非常に綺麗な人だった。 それが、自分に向かって幸せそうに微笑んでいる。 ギルは彼女を知っていた。 この場所で、初めて出会った。 最初は話しかけても、殆ど返答など返ってこなかったが、暫く一緒にいるうちに、笑いあうようになった。 「…ありがとう…」 自分の口のようで自分の口ではない口から、女性に向けられた感謝の言葉。 これがどんな意味をするのかギルには分からない。 自分の様で自分ではない手が、女性の手を握った。 女性は、今まで以上に微笑んだ…。 「…ま……ギル…ト様…ギルバート様っ!?」 「え…?」 気が付いたときには、目の前のベルが血相を変えて自分の肩を強く握り揺らしていた。 ギルがきちんと覚醒したのが分かると、やっとほっとしたらしく、手を肩から離した。 「大丈夫ですか?まだ具合が悪いのでは?いきなり反応しなくなったので、心配しました…」 どうやら自分が目を開けながら眠っていたらしく、ベルに謝罪する。 それにしても。 「…やけに、リアルな夢…だったな」 女の顔も、きちんと覚えている。 だが、どうしてもその名を思い出す事が出来なかった…。 消して忘れてはならない名だった筈なのに。 大切な名だった筈なのに。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 久々オリジナル更新。 説明口調が長くなるのはオリジナルの鉄則だね!(私が下手なだけ) おかしいな、ギルとハルを早速会わせてやろうとか思ってたのに…。 今回じゃ会いませんでした。 ミストとギルとベル登場。兄弟じゃありません。 ハルちゃんの婆口調がいっぱいかけて楽しかったです。 ハルちゃんの話は基本過去形シリアスなんで、話が暗いね! っていうか、名も無い兵士さんの部分で場所とりすぎた…orz 2006.08.14 |
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