Endless Romance




月が溶けていく





…あの日の事を決して忘れない





波に混じり





…この憎しみは魂をも焦がし





また空へと打ち上げられる





…深く深く、刻まれる





終わりの無い恋物語













Endless Romance     :::::::prologue:::::::    Ver ハルディラ











…あぁ、ようやく帰ってこれた



確かに、ハルディラはそう思った。
生まれた、その瞬間に。
必要最低限以外泣きもしない。
両親もその異常さに気付き、そして一族の長の下へ向かった。

「おじじ様!我が子が…もしや我が子があの念願の…っ!!!!」

もう150年は生きたとされる一族の長は、ゆっくりと頷き、そして生まれたばかりの赤子に頭を下げた。

「…この方は、我ら一族悲願のお方。300年の時を経て、我らが元に帰って来て下さった、ハルディラ様じゃ…!」

おぉ…!とその場にいた者は全て赤子に頭を垂れる。
その光景を、赤子であるハルディラ自身、さも同然としたように、冷ややかに見つめていた。





























ハルディラが新たな生を受け、13年の月日が流れた。

「そろそろ…頃合、かのぅ…」

読んでいた魔道書をその場に置き、ハルディラは邸の自室を後にした。
勿論邸の中では1番高価な部屋だ。
この邸にハルディラより身分の高い者はいない。
それは生まれた時からの、確かな事実だ。
古くから『魔』と共に生きる一族。
それがハルディラの生まれた一族だった。
人々は彼らを『魔術師』や『魔女』と呼び、恐れた。
魔力はこの世界に生きる誰もが持つもの。
だが、一族の中にはその魔力が半端じゃなく強い者が何人も生まれた。
それは時として国おも揺るがす大きな力になる。
魔術に長けた一族の中でも、もっとも魔力を持ち生まれたのが、このハルディラだった。
その証拠に、ハルディラは前世の記憶を持って生まれた。
正確には『前世であるハルディラ』の記憶である。
ハルディラは昼間なのに薄暗い廊下を歩き、魔法陣の描かれた部屋のドアをノックも無しに開いた。
寧ろ手すらドアにかけていない。
このくらい魔術で開けるなんて、指を動かすより楽な事に近い。
魔法陣の中心には、ローブを身に纏い、手では印を結んでいる老人が居る。
その老人に向かって、ハルディラは事実だけを一言で伝えた。

「わしは復讐をしにいく」

老人の顔色が変わる。

「そ…それは、ここを出て行かれる、ということですか?」

声も震えているように聞こえる。

「そう言ってる。こんな所に居ては奴は見つからんでな」

それだけ言うと、ハルディラはくるりと向きを変える。
これ以上いう事は何も無い、と背中で訴えている。

「お…お、お待ちくだされっ!!!貴方様は我らが長年待ち続けたハルディラ様っ!!
これから一族のトップに立たれるのは貴方様ですぞ!!それなのに今ここを出て行かれるわけには参りませぬっ!!!」

そんなことを望んだ覚えの無いハルディラはその言葉にシカトを決め込んだ。
しかし尚も老人は叫び、その声を聞いた一族の者達がハルディラの行く手を阻む。


「…お戻り下さい、ハルディラ様。この邸から出ることはなりません」

ハルディラはふぅ、と短く溜め息をつく。
それは諦めとも取れるし、侮蔑にも聞こえる。

「……お主らもわしの行く手の邪魔をする気か?…それはどうなっても構わない、ということじゃな?」

その場にいたハルディラ以外の者たちは、その場に凍りつく。
言葉と共に放たれた背筋を凍らす鋭い目つき。
たった13歳の少女から放たれるべきものではない。

「…これ以上邪魔をする気なら、容赦なくいくから、心に免じておけ?」

「あ…あ…」

相手が返事すら出来ない状況だと気付くと、些かハルディラは不快に思う。

「なんじゃ、この程度で口も利けなくなるとは…。300年の間に我が一族の質も落ちたものよのぅ…」

一番早く意識を取り戻したのは年長者である老人だった。
しかし選んだ選択が良くなかった。

「な…何をしておるっ!!はようハルディラ様をお止せんかっ!!!!」

その言葉はハルディラを苛立たせるのに充分なものだった。
ハルディラは左手で自分の荷物を持ち上げると、右手の人差し指で空に何かを描く。
それと同時に、まるで歌のような声が聞こえる。
少女らしいソプラノボイスがその場を支配する。
しかしそれは歌で無いことに気がついたのは、もう手遅れの段階だった。

「それは!!!」

「だから言ったであろう?邪魔をするな、と」

その瞬間、邸は炎に包まれた。
















燃え落ちる館を背景に、ハルディラは歩き始めた。

「………この邸の者のように、すぐに楽にはせんぞ…」

瞳には深い憎しみを。

「この手で見つけ出し、必ず地獄へ叩き落してやる…っ」

その為に、この世に舞い戻ってきたのだから。

「……わしを裏切った事、決して忘れぬ…」

掛け値なしで愛していたのに。
その甘く切ない想いは無残にも打ち砕かれ。
冷徹な魔女は足を進める。
輝ける未来に向かう道ではなく、血塗られた復讐の道を歩く為に…。













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ハルちゃん始動。
ハルちゃんの台詞書くの、マジで楽しい…!


2006.4.9