::ねがわくば::





エルドラントで


体を無数の剣の鞘にして


それでも目の前だけを見つめて


自分に向かってくる敵を全て薙ぎ払って


体は凍えるように寒く感じ


これが、死か。


そう心の中で理解をした


目の前が白くなっていく


思い出すのは、アイツばかり………









「……ク、ルーク!!聞いてますこと?私の話」

目を開けると、ナタリアがいた。
金の髪が、目の前に飛び込んでくる。
素直に綺麗だな、と思う。決して口にはしないが。
ぼんやり目の前の少女を見つめ、意識を覚醒させる。
そして気付くのだ、今は一人では無い事に。

「………なんだ」

あくまで、冷静に。
眉を上げて、頬をほんのり赤らめている姿も可愛いと思ってることを悟らせてはならない。

「だから、今度はあちらで遊びましょうって言っていましたの!
やっぱりルークは私の話など聞いていなかったのですね…」

「…そんなことは…無い」

俺がそういうと、ナタリアは更に怒った顔で俺を見る。

「嘘おっしゃい!では、あちらで今度は何の遊びをしようとしていたか、言えますの?」

あちら、と言いながら、ナタリアは中庭を指差す。
そこには花の手入れをしているペールと、たまたまそこを歩いているガイがいるくらいだ。
何をしようとしていたかなど、予想がつくはずも無い。
俺が答えられないのを見ると、ナタリアは腰に手を当て、怒りを表した。

「ほら、やっぱり聞いてませんでしたのね!?もうそんなルーク知りません。 私一人で遊ぶから、どうぞそこで一人でぼーっとしていらして!!」

そう捲くし立てると、ツンとそっぽを向く。
俺がバツの悪そうな顔をしている事に気がついたのか、ガイが口パクで「謝っちまえ」と笑って言う。
あんまり気が進まないが、俺はガイの助言に従う事にした。

「…悪かった。今度はキチンと聞いてるから、許してくれ」

俺がちゃんと謝ると、ナタリアは機嫌を少々直し、こちらを向いてくれた。
ただ、まだ手は腰の上だ。

「では、今度から私と遊んでる時に、ぼーっとするのは止めてくださいね?
一人で居るのと同じになってしまいますわ」

一人は淋しいですもの、とナタリアが言う。
言ったナタリアの顔が、妙に寂しそうなのが、心に酷く突き刺さった。









子どもの頃の、ささやかな出来事。
それを思い出し、アッシュはふっと困った様に笑った。

「……ナタリアは、…泣く…な」

この世で一番、泣かせたくない相手。
人一倍優しくて、人一倍寂しがりなのを知っている。
だからあの時、俺が傍にいてやらなくちゃと思った。
婚約者だからじゃない、約束をしたからだけでもない。
ただ、一緒に居たいと思っただけだ。
何故、今、あんな事を思い出すのだろうか。
思考がだんだん追いつかなくなっていく。
まるで流れ出る血と共に、失っていくようだ。

「そ…だ…、あの後…ナタリアが、…木に…」

登ろうとしたのだ。
だからガイと二人で目一杯止めた。
それが原因で喧嘩になって。
母上に、「明日、一緒に謝りに行きましょうね」と言われて。
そして次の日。



―――俺は、全てを失った―――



また、ナタリアに触ることが出来て、嬉しかった。
その感情を外には決して出さなかったが。
だが、彼女のぬくもりが、またこの手を転がっていく。
もう二度と、失いたくは無いのに。
また、『一瞬』に、奪われていく。

「…………っくしょう…」

不愉快な鎧が駆けて来る音を聞き、俺は再び目の前にあった剣を取る。
力の限り、その剣を振るう。
しかし自分の死の影が目の前に迫っているのは明確だった。
死にたくなんてない。
失いたくなんてない。
もう一度………あの笑顔の元へ。

「…うぉぉぉぉぉぉ!!!」

剣が、敵の体に食い込む感覚すら、もう無い。









ね が わ く ば


 も う い ち ど 


  あ の え が お の も と に














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えー。アビス初作品がこれかよ。
衝撃的でした、アッシュのあのシーン。
こんな事考えてたんじゃないかな〜?とか勝手に捏造ですね。
生に執着してるアッシュが書きたかった。ただそれだけ。
もうちょっと楽しそうなの書きたいなぁ…。
でも、ルーク&アッシュの生存捏造EDを書くためにはやっぱりこういう暗いのも書かないとなぁとか。
…にしても、アシュナタに落ちたのは自分的にもビックリでしたねぇ。
スパ話とか書けたらいいなぁとか思いつつ。



20060109