うれしいよ。 ばぁんと扉が開く。 開いたとたん、薔薇の香りとクラシック音楽が何処からとも無く漂ってくる。 「やぁ私の可愛い姫。久しぶりに貴女の婚約者、エーディワルト・フォン・ギルゲーが会いに来たよvv」 「………あ?…っと、『まぁ!いきなり訪ねられてこられて。私驚いてしまいましたわ!…本当に久しぶりですわね、エーディワルト様。三ヶ月と二十三日振りですわ』」 ついこの間十二歳になったばかりの部屋の主、メルデシア(以下略 メル)は イキナリ登場した婚約者に一瞬素を見せ、そして猫を被る。 最後に会った日を記憶しているのは、それだけこの人の存在が濃いからだ。 領地を持ってる一貴族ですから、数ヶ月に一度城を訪れるのはよくある事で。 (…でも、わざわざ私に会いに来なくても……) 領地内の報告だけだったら、書面、または国王に報告するだけで十分なのだ。 なのにこの人はその話をわざわざメルにまでしにくるのだ。別に頼んでもないのに。 でも一応婚約者なんで、愛想良く受け答えてたりする。 まぁ実際話し自体に興味はあるのだが。 ただこの人と話していると疲れるのだ、作法の授業の倍くらい。 しかもこの日、メルはむちゃくちゃ機嫌が悪かった。何時もの猫被りを忘れるほどに。 その異変(?)にエーディワルト伯爵代理も何となく気が付いた。 幾ら鈍くても、流石に気付いた。 (むぅ…、どうしたんだ、私の姫は。今日は妙に刺々しいというか…。) そうと思ったら、次にどうしたら許して貰えるかを必死に考えたりする伯爵代理様。 メルとしては。 (…なぁんでこんな時に来るかな?…今日は午後の授業が無くて暇だった筈なのに…。街に遊びに行こうと思ってたのに…) つまり行き成り尋ねて来て、珍しくムカついているのだ。 楽しみにしていた分、悔しさも大きい。 ジロッと睨まないだけまだ理性を保っているということだろう。 でも態度までは変えられない。 そこまで大人じゃなかった、メルは。 幾ら考えが大人でも十二歳に替わりは無いのだ。 「…姫?何だか今日は機嫌が悪いようで」 「え?そー見えますか?そんなんでもないですよー」 とうとう猫を被るのも無理になってきた。アカラサマに嫌味っぽく言ってみる。 そんなメルの機嫌を察して、さっさと帰ってくれれば少しは怒りも収まるものの、 ギルゲー伯爵代理様は何とか機嫌を直してもらおうと色々やり始めた。 「姫っ!私の領内で今流行っているケーキなのですが…」 「私、ケーキとか甘いもの、大して食べませんのっ!」 「………今日の姫のドレス………」 「お姉さまのお古ですのっ!似合います!?」 「………………」 「…他に何かありますか?エーディワルト様」 そう言い切ってメルは行儀悪くズズっと紅茶を飲み干す。 バクッと置いてあったお茶菓子を食べる。 どんな鈍感な奴にでも一発で怒ってると分かるように。 弱ったのはエーディワルトの方だ。ここまで愛しの姫が怒った事は無い。 もともと大して表情を出さない人なのだ。 でも、だからかもしれない。こんな風に思うのは。 「…姫、私は今、少し嬉しいと思ってますよ」 「私が怒ってるの、分かりませんか?」 「分かってますよ。だからです。こんな姫を見たのは初めてですからv」 今度はメルが何も言えなくなる番。 呆れた顔をしても、相手はニコニコ笑っているだけ。 仕舞いには『今日は姫の怒った顔を見ていましょうv』なんて言い出す始末。 結局先に根を上げてしまった。 「…もういいです。でも私は怒ってるのだから、一つ、我侭を言いますよ?」 「えぇ、どうぞ。我が愛しの姫の為なら何だって」 そう言われて、メルは一言言い切った。 「次に来る時からは、事前に連絡する事。そうすれば、気分の準備ができるでしょう?」 ―――そうしたら、折角会えるのに、楽しめるでしょう?――― +++いつもはないのに、あとがき? 学校行事のために書いたものパート2。 絶対この2人は書こうと思ってた、書きやすいから。 受験と被ってたから(しかも課題提出だったから…)本当に必死だったんだと。 無駄に本編よりラブい気がする。うーん。 本編ではこんな風になる日が来るのかは本人すら分からないと。 2005.2.4(本当は2004.9.某日) |
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