++あの空を度見てしまえば last part++

 

 

 

月明かりしか明かりは無い

 しかしその目はしっかりと自分達を捉える

 

お互いは距離を測り

 己の獲物で身構える

 

異形の者達は拳を

 私は腰に下げた剣を

 

 

 

「あれがこの村の人たちを困らせてるルドアかぁ…、大きいなぁ…」

 

「あんなもんまだまだだぜ。もっとでかいのと戦った事もあるぜ?」

 

「へぇ、凄いんだ、グロウって。僕、ルドア見たの今日が始めてだもん」

 

「はっ!?そんなんでこの仕事引き受けたのか!?…やっぱ分かんねぇ」

 

そんな風に穏やかに話していると、痺れを切らしたルドア達が襲い掛かってくる。

だがそんな単調な攻撃でやられるほど、この二人は弱くは無い。

あっさりよけて、逆にカウンターで数匹を倒す。

 

「お、獣型のルドアか。ラッキーだったな、知能はあんまない奴だ」

 

「へぇぇ、よく見ただけでわかるねぇ。僕も見習わなきゃなぁ」

 

「アホか!っと…、ここまできたら仕方ねぇ、俺も手伝ってやるか!」

 

意外な申し出である。

メルは暫く黙って(その間にもルドアとの距離を測ることは忘れない)一言呟く。

 

「………お給料でないよ?」

 

「わーってるよ!!でもこの場合、オノレの命を護るためにもしょうがないやろ!!」

 

その瞬間グロウは自分の後ろに下げていたボーガンを放つ。

矢は見事ルドアの眉間に命中、それが起き上がることは二度と無かった。

 

「おぉ!!強い強い!!じゃあ僕も…」

 

メルは素早くルドアの懐に入り、斬撃を食らわせる。

斬りつけると同時に、思いっきり蹴飛ばし、後ろにいたルドアごとひっくり返す。

ピッと返り血を浴びるが、気になどならない。

そんな感じでばっさばっさと敵を倒してしまった。

村の人たちは息を飲み込んだ。

10数匹は居たであろうルドアの群れは、

たった2人によってあっさり片付けられてしまった。

濃い血のにおいが、辺りを支配していた。

その様子に、メルはボソッと呟いた。

 

「…どっちにしても、今年は不作だな、この村………」

 

その言葉にグロウはぶはっと笑いを吹き出した。

 

 

 

翌日、食堂はかなりの賑わいを見せていた。

あの後散乱していたルドア達の死体を村の男性諸君+グロウとメルで片付け、

明け方、やっと終わったのだ。

血塗れ・泥塗れでドロドロだったので、各々風呂に入り、こうやって祝杯を挙げているのだ。

まぁ、今年の作物に期待は出来ないだろうけど、恐怖の対象が居なくなった事は大きい。

 

「なんだ、お前。本当に何にも考えなしに旅に出たのか。そーいうのは家出っていうんだ、家出って」

 

「考えないわけじゃないって。僕のしたい事が『人助け』だと確信したから家を出たの。だって家に居ちゃ、何も出来そうも無かったしね」

 

「どっちにしろ家出だろ。…まぁいい、……ほれ、飲めよ」

 

勿論その祝杯の主役であるメルとグロウの前にも多彩な料理が多々並んでいた。

特にお酒の量は果てしなく、この村中から集めたんじゃないかと思うほどだった。

 

「だから僕はいいってば。飲めません、のーまーなーいー…ガボガボ

 

と言ったのに、無理やりグロウに押し込まれた。

その騒ぎに便乗して村の奴らまでメルに流し込む。

流石に耐え切れなくなり、ルドアを張った押した強力で全員を引っぺがす。

ゲホゴホとまだ飲み込んでいなかった酒を一気に吐いた。

それでもまだ気持ちが悪い。ムカついて全員を睨み付けてやった。

その威圧に驚き、グロウ以外の奴らはまた何処かへ行き、飲み会を再開した。

 

「怒んなって。ほれ、飲めるだろ?それでこそ一人前の男ってもんだ」

 

「何度か舞踏か…じゃなくて夕飯に出た事があるから少しくらいの免疫はあるさ。けどあんまり強くないし、飲みたいと思わないから、出来れば飲みたくないんだ」

 

「ガキだなー、こんなに美味しいのによー……。っかー!!!やっぱ仕事の後は、これだなぁっ!!!!」

 

「そんなもん?僕には分かんないけど。あ、そだ。ねぇ、グロウはこれからどうするの?」

 

興味津々といった感じで、メルはグロウの顔を覗き込む。

グロウは何だか気恥ずかしくなって、意識して顔を遠ざけた。

 

「どうするもこうするも。明日にはここを出る予定だ。ここに居ても、もう儲からないからな。次の街に行って、仕事探しだ。で、お前は?」

 

グロウがそう聞くと、メルは待ってましたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふ…。よくぞ聞いてくれました。…僕、また分かった事があるんだ」

 

もうグロウはかなり呆れ顔。でも話に付き合ってくれるのは、根が良い人だからだろう。

 

「僕、この前人に『ありがとう』とか、そういう風に感謝されるのが好きなんだって分かったんだ。で、もっと言われたいから、もっと助けを求めている人を助けたいから旅に出た、そう話したよね?」

 

「あぁ、そうだな」

 

結構でかい声でメルが話すので、別の場所で飲んでた人たちも何事かと見学に来る。

 

「今回、グロウに出会った。グロウは冒険者を自分の適職にしていた。正直戦ってる時、羨ましく思ったよ。自分の中の大切なものがちゃんと分かってるグロウが」

 

表情豊かに、何か変な振りまで付いてる。

 

「そしてそう思ったとき、とうとう僕は自分に適職を見つけたんだ…!!」

 

おぉー…と村人たち、意味も分からず拍手。

何かメルの周りがキラキラしてて、華が散らばってるように錯覚してくる。

 

「僕の適職…それは『勇者』…そして『英雄』呼ばれるべき存在……!!!」

 

ここ一番の歓声が村人達の間で湧いた。

逆にグロウは、呆れ顔を超えて超溜息。

ようは、酔ってるのだ、メルは。

そこに同じく酔ってるのだろう、顔を朱に染めた男が1人、メルに寄ってきた。

 

「じゃあ未来の勇者様ならよぅ、今世界の脅威になりつつあるって噂の、クロジュールの大魔女、倒してきてくれよー」

 

うーむとメルは唸る。考える人のポーズを取りながら。

その言葉に、グロウは顔をしかめた。

その話は、冒険者仲間の間で密かに噂になっているものだ。

もうこんな村人まで知ってるなんて、少しヤバイと感じる。真実に近い可能性が高いからだ。

少々真剣に悩んでいると、先刻まで唸っていたメルが覚醒したかのように目を開ける。

 

「んーーーー……、まっかせなさい!!!!」

 

間抜けすぎる声でそんな事言われても。

今度こそ本当に、グロウはずっこけた………。

 

 

 

翌日…

 

「うー…頭、ガンガンするー…」

 

「そーだろーなー。あんだけ飲みゃーな」

 

「……もう絶対酒なんか飲むもんか…」

 

そう呻くメルを、グロウは豪快に笑ってやった。

もう2人は村を出ていた。

今は他の街に行くための街道を歩いている途中だ。

 

「で、お前は何で俺について来るんだよ」

 

村を出て、もう何度か分かれ道はあった。

けどメルは真っ直ぐ、グロウの後ろを歩いてきている。

だからそう質問したのだが、メルはさも当たり前のように言い切った。

 

「?何で?僕、別に目的地決めてないから、これからグロウに着いて行こうと思って。だって『絶対ついてくんな』なんて一言も聞いてないしさ。あ、それと。グロウ、僕昨日の事はちゃんと覚えてるからね?」

 

昨日の事と言うと。

そう考えると、グロウはさぁーっと血の気が引くのを感じた。

そんな事はお構いナシに、メルは勢いよく拳を空に向かって突き出して叫ぶ。

 

「よぉぉぉぉし!!!悪い魔女退治に、いっくぞー★」

 

グロウの上に、何か重いものが乗っかった気がした。思い溜息が出る。

でも、不思議とそんなに嫌だと思ってないことがわかった。

なんだかんだでグロウは、この単純馬鹿とも言えるメルが気に入ったのかもしれなかった。

今までこんな奴に会った事が無かった。見てるだけで楽しいと思える人間なんて。

そう思ったら、もう悩むのは止めた。覚悟を決めた。こいつに付き合ってもいいと。

 

「あのなぁ……、あーもういいや、分かった。俺がお前の保護者になってやる。…ほら、いくぞ」

 

「保護者?僕はもうそんな子供じゃないよ!せめてパートナーと呼んでよね、グロウ!」

 

メルも、何だか嬉しかった。屈託の無い笑顔を出したのは、久しぶりのような気がした。

とてとてっと少し早めに歩き、隣まで追いつく。

ただ、それだけなのに、2人とも笑いが止まらなかった。

 

 

 

この空を見てたら

 ただ遠くの雲を見つめて

 

2人の旅立ちを祝福する

 この空は永遠に心に根付く

 

 

 

 

2004.7.16   とるこまりん改め葛餅まりん