魔力のおひめさま Latter part

 

 

 

知ってたんだ

 もう始めなきゃいけないこと

 

甘えてばかりいられないんだ

 だってもう子供じゃないんだから

 

この空が、風が

 その事を告げてると、ずっと前から気づいてた

 

 

 

 

 

 

誰も思わないだろう。

こんなところに正真正銘のお姫様が、従者も付けず、りんごを齧ってるなんて。

メルは何をするでもなく、そこら辺をふらふら見て歩いていた。

城下町だけあって、そして休日だけあってかなり賑やかだ。

メルはこの街が好きだった。

城では、猫だか虎だかを被らなければならない。

というか、城ではどうしても自分の居場所を見つける事が出来なかった。

その点、外では気にする必要が無いのだ。全く。

だから気が休まる気がした。城の外に居る時は。

 

「さてと。日が沈むまでまだまだあるし、今回は何しようかな?」

 

このまま街を歩くのも悪くない。

少し先にある、小高い丘に登って、街を見下ろすのも良いかもしれない。

 

「……でも、何か違う。私が本当にしたい事と、何かが違う」

 

違うのだ。自分の、頭の中で浮かんでいる何かと。

自分が今一番したいことは、城で猫を被ることでも、

街を歩いたり、見下ろしたりする事でもない気がする。

いつもそこまで考えて、そこで止まる。

進まない、変わらない。

もどかしい気持ちでいっぱいだ。

暫く、どの位の時間か分からないが、メルは立ち尽くしていた。

 

 

 

気を持ち直したのは、悲鳴が聞こえたからだ。

街の門の前に、随分な人垣が出来ている。

どうやらそこが十中八苦原因らしい。

メルは持ち前の身軽さでひょいひょいと屋根に飛び移り、見やすい場所を確保した。

 

「おいてめぇら!!!俺たちゃぁ泣く子も黙る、盗賊団『銀の狼』だぞ!!!!

殺されたくなけりゃ、金品全部こっちに差し出せぇ!!!!!」

 

今時珍しいくらい分かり易い盗賊たちだと、思わず感心してしまった。

 

「それにしても。勇気あるなぁ、王都で、しかも白昼堂々と。普通しないよねぇ」

 

王都には騎士団が居る。こんなの子供でも分かる一般常識である。

だから無闇に悪事を働くものが案外少ないのだ。

でもよく見ると、街の子供達数人を人質にしている。

 

「あ、卑怯。……って盗賊なんだから卑怯もくそもないか」

 

下では子供達の母親らしき人たちが、泣きながら助けを求めている。

城の方を見るが、騎士団の姿かたちすら見えない。

 

「いざと言う時の為の騎士団なのに、こう行動が遅くちゃ意味がないなぁ」

 

上から見た限りでは、盗賊の人数はさして多いものでもなかった。

下に居る街の男の人たちも、きっかけさえあれば助けてくれるだろう。

つまり、今必要なのはきっかけだ。盗賊たちの隙を付く。

 

「よっこいせっと。………てあ!」

 

ピョンと屋根から飛び降りる。人質たち見張ってる男に向かって。

その気配に気づき、男が上を見上げる。その瞬間に顔面に足が食い込んだ。

声もなく、男が倒れる。

盗賊たちは一斉にメルの方を向いた。

 

「何者だっ!?てめぇ!!!」

 

「うーん月並みな台詞、どうもありがとう。僕はただの通りすがりの一般市民(未成年)ですよ」

 

勿論月並み盗賊団員達は、メルに向かって斬りつけてくる。

これを機に、人質達が一斉に逃げ出した事に気づきもしないで。

メルはピョーンピョーンと屋根に飛び移ったり、降りたりして盗賊を混乱させていた。

その間に少しずつ敵を倒していく。

 

「うーん、随分倒したなぁ。…でもこの人たち、この程度の実力でよく王都に来る気になったなぁ」

 

もう殆どの盗賊たちが戦闘不能である。伊達に毎日こっそり剣の稽古をしているわけじゃない。

それに、この街の地理に詳しかったのも勝因の一つだろう。

知り尽くしていたからこそ、ここまで混乱させる事が出来た。

急に後ろから殺気を感じ、さっと横に飛ぶ。

 

「ちょこまかするんじゃねぇ!!餓鬼が、俺達の仕事の邪魔するな!!!!」

 

どうやらこの盗賊団の団長さんらしい。

いかにも悪人っ!という顔をしている。

 

「邪魔するなって…、貴方達がこんな事しなけりゃ僕だって邪魔しないよ?でも、困ってる人が近くに居るのに助けないなんて、僕の道徳に係わるからね。それにどんなに君達のご飯の為と言えど、他人に迷惑をかけちゃいけないよ」

 

しかしこんな正論を聞いて、改心するならきっと盗賊なんてやってないだろう。

 

「うるせぇ!!!殺してやる、降りて来い!!!」

 

「嫌だよ。まだ死にたくないし」

 

「んだとぅ!!!??」

 

まだ15歳になったばかりだ。死にたいと思うほど、ネガティブな人間じゃない。

でもこのまま鬼ごっこをしてても拉致が飽きそうもないし、メルは屋根の上から降りてきた。

 

「お?覚悟、決めたか。散々俺らの邪魔をしたんだ…ただじゃぁ殺さねぇ。甚振ってやる」

 

汚い笑い方をするものだ。思わず呆れてしまう。

そして頭をふるふる横に振って言った。

 

「いや、死ぬ気ないよ?ただもう夕方だし、そろそろ帰らないと色々面倒だし。だからさっさと捕まえちゃおうと思ってさ。もう街の皆さんも夕飯作りたいと思うだろうしね」

 

怒るだろう。普通こういうタイプの人は怒るだろう。

そしてやっぱり、予想通り怒った。

 

「なんだとてめぇ!!!!なめてんのか!!!!あの世で後悔しろ!!!」

 

そう言って、大の大人はまだまだ子供なメルに突進してきた。

しかし、隙だらけ。よほど怒ってるらしく、全然冷静さなど感じない。

そしてそんな考えも無い攻撃、身の軽いメルに当たる筈も無い。

とんっと男を飛び越し、腰に下げていた剣を即座に取り出し、男の首筋にぴたりと付けた。

 

「おめでとう。僕の勝ちだよ」

 

何時でも殺せるよ、のスマイルを浮かべる。

男は背に、首筋に、手に、びっしり脂汗を掻いていた。

 

「………くそぅ…!!!」

 

その言葉が、彼ら盗賊団の負けの合図となった。

女子供を安全な場所に移し終わったらしい街の衆がメルに加勢し、皆お縄。

やっと出てきた騎士団が、さも自分達が生け捕ったといった感じで城へ引っ張っていった。

街の人たちは文句を言っていたが、メルとしては

これで厄介事を全部片付けられるんだから、楽なもんだと思っていた。

気がつくと、メルは街の人たちに囲まれていた。

皆、にこにこして、メルを見つめてる。

 

「オイ少年!凄い活躍だったな!!おかげで皆、助かったよ」

 

「本当に。勇気のある子だねぇ。皆怪我もしないで無事だったのも、みーんなあんたのおかげだよ!」

 

「私の息子、助けてくれてありがとう!本当に……、本当にっ」

 

盗賊たちに捕まってた少年の母親は、半分泣きながらメルに礼を告げていた。

メルとしては、不思議な気持ちだった。

何だか、恥ずかしいような、それでもって、何か満たされるようだった。

『ありがとう』という言葉が、自分に居場所をくれた気がした。

城への帰り道、すっかり暗くなった道を歩きながら考えていた。

 

(………そっか。これだったんだ)

 

自分が、ずっと求めていたもの。一番したかった事。

一番したい事が分かった。だったら、次はどうするべきだろう。

 

(……そんなのずっと前から分かってる。ただ、何がしたいのか分からないまま、出て行くなんて出来なかったから)

 

髪を風が掬う。ふわり、と優しく包む。

メルには、風が『さぁ、お行き』と言ってくれた気がした。

 

 

 

その夜、メルは自分の6年を過ごした城から、出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

僕が欲しいものは、『ありがとう』

 僕を、必要としてくれる言葉

 

広い世界を知りたい

 もっと色んな事を知りたい。

 

困ってる人を助けるならば

 僕は何処までも行きましょう

 

 

 

 

 

 

++ちょびがき++

長いんで、前編後編で分けました。

オリジナルでファンタジーは初めてでつ。

無茶な注文ばっか言ってるのに、

イラストを描いてくれる神名さま、ありがとうございます。

ではでは。リヴリーが愛しい今日この頃。

 

2004.6.30      とるこまりん改め葛餅まりん